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和風・最後の晩餐

 彼女の激昂(げっこう)に固まる一同を前に、トヨは眉根へと深い皺を刻んだ相貌を、ぐっと対面の相手へ突き出す。


「成功報酬が10万(りょう)だなんて、冗談でしょ!? あなた、こっちが苦しい状況にあるって知って、足もとを見てるんじゃないでしょうね!?」

「え、そうか? 依頼への助力と比べたら高めかもしれないが、組座戦への加勢の報酬としては、そんなに破格じゃないはずだけどな。あれ? もしかして、お前達の組座って貧乏なのか?」

「もしかしなくても、そうよ! そんな条件を鵜呑(うの)みにしたら、勝とうが負けようが(うち)はご破算になっちゃうのよ! 相手が金欠(きんけつ)組座で、どうも済みませんでしたぁ!!」


 言い争いを聞く限り、どうやら二人は、契約金の額について揉めているようだった。

 暗礁(あんしょう)に乗り上げてしまったらしい交渉に、俺は驚きから(むせ)ていたいろりの背を(さす)りつつ、机上へと身を乗り出して息巻くトヨを(なだ)めにかかる。


「おい落ち着けって、いろりもびっくりしてんだろ。金のことは俺は良く分からないが、そいつが欲しいって言っている分は、こっちにはないのかよ?」

「この前の依頼の礼金を回せば、どうにか(まかな)えはするわよ。けど、そんなことをしたら、本当に私達は一文無しよ! ただでさえ、明日の組座戦には勝てるかどうかも怪しいのに、その上貯金も全部失っちゃったら、もうどうしようもないくらいにどん底の底―――― 」

「何でそこで、負ける前提になってんだよ。こいつの実力が確かなのは、お前も自分の目で見たはずだろ? 第一、いくら払おうが最終的に勝っちまえば、あのワカメ頭から大金も搾り取れて、充分に元は取れるから問題ないじゃねえか」

「それは、そうだけど……でも、そんな上手くいくはず、普通に考えてある訳―――― 」

「それとも、お前は自分の手下の二人がどっちもあっさり負けるって思ってんのか? 俺達は、今まで誰も倒せなかったあの化け物を、あと一歩のところまで追い詰めたんだぜ。しかもそこに、トドメを刺した奴まで加わったんだ。こんだけの少数精鋭なメンバー、なかなか揃えられるもんじゃないぞ」


 多少の皮肉も込めた俺の発言に、トヨはむっと唇を尖らせながら腰を降ろす。

 それでも、何か言いたげに視線を彷徨(さまよ)わせていた彼女だったが、追い打ちをかけるように玄月が淡々とした物言いで後を続けた。


「仮に、その女が不適合だとして欠員はどう補う? 今から酒場にでも行けば、同じ流浪人を数人は探し当てられるかもしれないが、ほぼ間違いなく、そいつよりも多額の報酬を求められるはずだ。重ねて、金子(きんす)目当てのために、自らの腕前を誤魔化す者さえいるだろう。我々の組頭に、何か起死回生の腹案でもあるのならば、無理にその女と契約を結ばなくとも良いかもしれないがな」


 俺よりも更に辛辣(しんらつ)揶揄(やゆ)に、トヨはぐぬぬと唇をへの字に曲げる。

 彼女はしばし、苦み走った面持ちで頭を悩ませた後、脱力気味に肩を落として嘆息した。

 

「ここまできたら、背に腹は代えられないってことね……。あー、もう、分かったわ! だけど、負けたら報酬は半分! この条件だけは、絶対に受け入れてもらうわよ!」


 トヨからの投げやりな最後通牒に、固唾(かたず)を呑んで成り行きを見守っていた百萌は、戸惑い気味に目を(しばたた)かせる。

 やがて、正式に採用が決まったことを知った彼女は、ニッコリと大きく相好(そうごう)を崩し、大きく強く頷いてみせた。


「ああ、もちろんだぜ! 相手がどんなのだろうと絶対に結果は出してみせるから、大船に乗ったつもりで任せとけって!」

「何とも、頼もしいお言葉ね。せめて、泥船じゃないように祈っておくわ……」

「ところで物は相談だが、ここの食事代は前金代わりになったりしねーか? もしそうなら、明日の試合は更に気合も力も入っちゃうんだけどなー?」

「あんた、何を調子に乗って……はぁ、良いわよ、払ってあげるわ! どうせ明日の組座戦に負ければ、私は身の破滅だしぃ! 酒でも肉でも、どんどんじゃんじゃん好きなだけ頼みなさい!」

「いよっしゃあ! さすが神様、太っ腹! 明日までだけど、どこまでも付いていきます!」

「こうなったら、私も景気付けよ! ちょっと店員さーん! この店で一番高いお酒、一升瓶で持ってきて!」


 一気に交渉を締結させた彼女達は、勢いのままに食事へと取りかかる。

 片や、並べられた皿を瞬く間に空にしていく健啖(けんたん)さを見せ、もう一方では木の升に告いだ清酒を浴びるように飲み干していく上戸(じょうご)振りを発揮する、二人の少女。

 

 そんな、暴飲暴食を協力して体現する女性陣を前に、俺達男性陣はいろりの頭越しに、当惑と苦笑の眼差しを見合わせるしかなかった。

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