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助っ人さん、いらっしゃい

 遠征を終えた俺達が央都へと帰り着いたのは、陽が暮れる直前の夕方になってだった。

 付喪狩りが不首尾に終わったトヨは、その元凶でもある大剣の少女を(ともな)って、中心街近くの飲食店を訪れた。

 三階建て以上はあるその大きな店舗は、家族連れや酔った客達による(にぎ)わいと、重ったるいくらいに香ばしい匂いで溢れていた。

 

 割烹着(かっぽうぎ)姿の店員の案内で、俺達は(ふすま)で仕切られた、畳敷きの個室へと通される。

 和紙に墨書きのメニューから、各々(おのおの)が適当に好みの(しな)を選んだ後。

 注文した料理が来るまでの時間を使って、組座戦の助っ人を申し出てきた相手の、正式な面接が行われた。


「じゃあ、改めて。私は、もも。一、十、百のひゃくに、草冠に明るいの字を付けて、百萌(もも)だ。どうぞ、よろしくな」

 背筋を伸ばし、居住(いず)まいを正した大剣の少女は、対面に座る俺達へと一礼する。

 

 彼女の名前については、帰り道の途中で聞いてはいた。

 しかし、そこで用いられている漢字を聞かされると、その怪物を一刀両断した勇ましい姿とは、余計にイメージが合わなくなってしまった。


 そんな(ひそ)かな所感を抱く俺の隣で、百萌の正面に陣取っていたトヨは、難しい顔付きのまま彼女へと質問を返す。


「確認だけど、あなたは怪力の異能をもった転生者で、今は流浪人(るろうにん)として、この辺りの地域で活動をしている。それで、間違いはなかったわね?」

「ああ、そうだ。でも、央都には用事がない限り、あんまり立ち寄らないからな。私の話を聞いたことがなかったとしても、別に駆け出しの新人って訳じゃないから、そこのところは理解の程をよろしく頼むぜ」


 そう言って決まり悪そうに苦笑いした百萌は、面目なさげに頭へと手をやる。


 流浪人とは、何らかの理由で特定の神の下に付いていないまれびとが、あやかしの討伐や依頼主の護衛、時には対象の暗殺などを請け負う、いわばフリーランスの傭兵である。

 と、彼女の簡単な自己紹介を受けた時、俺はトヨから教えてもらっていた。

 そして、今回の主席面接官となっていた彼女は、はにかんでみせる応募者へと、薄く冷ややかに微笑みかけた。


「ふぅん、そうなの……。ま、悪い噂になっているようでなければ、別に知名度なんかはどうでも良いわ。一応確認だけど、あなた、警非違使とかに睨まれるような悪事を、これまでに犯してはいないわよね?」

「まさか! 私はこれでも清廉潔白、公明正大、誰にも何にも恥じ入るところは一つもないぜ!」

「なるほど。でも、気をつけなさい。やった方は些細(ささい)なこと思っていても、やられた方は恨み骨髄と覚えていたりするもの……。例えば、突然の横槍から獲物を奪い取った時とかはね―――― 」

「あれ、もしかしてまだ、さっきのこと気にしてんのか…………?」


 少々不穏な気配は漂うものの、採用に当たっての質疑応答は恙無(つつがな)く進められていった。

 百萌の詳しい実績へと話題を移すトヨに、俺や玄月は話へと加われず、完全に蚊帳(かや)の外となっていた。

 なので、俺達は面接の仕事を彼女へと一任し、運ばれてきた料理の処理係へと役目を転じた。


 続々と食卓の上に並べられていく和食には、俺も良く見知った物もあれば、何の材料でどんな作り方をしたのか見当も付かない料理もあった。

 俺が注文していた(にぎ)(ずし)にも、正体不明な切り身が幾つか含まれてはいた。

 もっとも、全て美味しかったので、何も問題はなかったが。


 いろりは見慣れない食事の数々に、おっかなびっくりとしながらも、少しずつ箸を付けていった。

 結果、彼女は味や刺激の濃ゆい物が苦手で、肉じゃがや里芋の煮っ転がしなど、芋系がメインの料理が好みらしい傾向にあると判明した。


 一方、玄月は日本酒を注いだお猪口(ちょこ)を片手に、黙々と出汁巻き玉子ばかりを口に運んでいる。


 見た目に寄らず、好物はまた随分と可愛らしいものだ。


 彼の食に対する嗜好(しこう)にもギャップを感じつつ、俺が茶碗蒸しを(すく)った木の(さじ)を、いろりの大きく開いた口へと運んだ直後。

 突然、激しい打突音と共に机が震え、(かす)れた絶叫が部屋へと轟き渡った。


「何よ、それ!? あんた、本気で言ってるの!?」


 急に張り上げられた怒声に、俺は慌てて声の方を振り返る。

 そこでは、少し面食らった風に固まっている百萌へ対し、床に膝を突いて腰を上げ、驚愕の表情から怒りの眼差しを向けるトヨの横顔があった。

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