組座戦とは
「宇迦真途組と豊尾刈組による組座戦は、明々後日の正午、稜雲殿の第柒奉技場にて執り行われる運びとなりました。試合形式は通例に則り、三本勝負。内容は当日、籤によって決定します。どうぞ、お控えおきください」
「三本、って……ちょっと待ちなさいよ、それだとこっちが不利じゃない!? 不公平だわ!!」
「期日や形式その他諸々は、こちらの一存で構わないと了承は頂いていたはずです。もし、こちらの処置に異存があるのでしたら、先の予約を解消致しますので、そちらで費用は全て負担の上、改めて奉技場を借り置いて頂くこととなりますが、如何致しましょうか?」
「うぐっ……いえ、異存は、ないわ…………」
「了承しました。最後に、ウマカド様よりのご伝言です。『当日はお互い、悔いのない正々堂々とした演武を行おう。それと、幸運の姫君にも、どうぞよろしく』とのことです。では、私はこれにて失礼させて頂きます。ご健闘を、お祈り申し上げております」
嫌味とも付かない辞去の文句を告げ、遣いの少女は深々と頭を下げる。
続けて、その背に生えていた両翼をはためかせた彼女は、旋風と共に空へと舞い上がり、社を囲む林の向こうへと飛んでいった。
夕闇色に染まった背中と翼が、社から見えなくなった直後。
奇妙な微笑みを浮かべていたトヨは、その顔を見る見る内に引きつらせると、頭を抱えながら天へと向けて絶叫を迸らせた。
「なぁにが、正々堂々よ、ご健闘をお祈りしますよぉっ!! 三本勝負って、こっちには試合に出せる人は二人しかいないって知ってる癖にいっ! そんなの、始めから不戦勝狙いに決まってるじゃないの!! しかも試合は三日後って、私達に人数を揃えさせないつもりで敢えてそんなに早くしたんでしょうが!! ほんと、あの鳥の巣頭、陰湿で狡猾で腹黒野郎なんだから!!」
「まったく、俺達も随分とまた、面倒そうな奴に目を付けられちまったみたいだな」
「えっと、何でか他人事みたいに言ってるように聞こえるけど ―――― 元はといえば、あんたが勝手に組座戦なんか受けちゃったのが原因でしょうがあ!! 」
同情を示す俺へとにこやかに笑みを返した彼女は、次の瞬間鬼女へと豹変し、隣に立つ相手へと背後から組み付く。
「組座戦ってのは元々、組頭の神同士が決めることなの!! なのに、なんで何も知らないあんたがしゃしゃり出て、勝手にやっちゃうって決めてくれちゃったのよ、ほんとにもうっ!!」
「いやぁ、あそこはああ答えなきゃいけない流れだったっていうか、俺としては売られた喧嘩は買う主義っていうか…………。つーか、そもそも組座戦てのは両方が合意して行うんだろ? だったら、今からでも止めれば良いじゃねぇか」
「あのね、昼間の騒ぎの事は、絶対に街の噂になってるはずなの! しかも、私達が組座戦を行うと約束したのを、警非違使の人達も見ていたのよ! そんな中で、もしこっちから一方的に放棄でもしたら、私達の組座の株と信用は、がた落ちするに決まってるじゃない! そうなったら、この先は央都での働きが難しくなるばかりか、組座への依頼が激減しまうのも必定なのよ! この世界に来たばっかなのに、知ったかぶりして受けて立ったあんたは、知らないでしょうけどねえ!! あーもう、あんたのこの頭の中には空気か筋肉でも詰まってるんじゃないの、ほんっとにぃ!!」
悲痛な叫びを上げながら、トヨは跳び付いた俺の首を回した腕で締め上げる。
本人は結構な力を入れているようだったが、悲しいかな、創生を経て強化された俺の肉体には、その細腕は余りにも非力に過ぎた。
寧ろ、限りなく密着した背中への柔らかな感触が、心地良いくらいだった。
『組座戦』とは何かについては、社への帰路の途中で、彼女から説教混じりに教えられた。
基本的に自身の利益を第一とする集団である組座は、互いの利害関係の衝突や交渉の決裂などから、時として互いに緊張関係を生んでしまう場合もある。
しかし、強力な異能を持つ者達が正面からぶつかり合えば、周囲へと被害が及ぶことは免れない。
そうした危惧から、央都の監督者である高天原は、問題を解決するための場と機会を設けた。
互いの所属メンバーの知略や武勇を競わせ、そこでの結果を交渉における優劣へと反映させる。
それこそが、組座同士の団体戦としての、組座戦の概要だった。




