彼女を欲する者
大通りの中央に手勢と共に陣取り、公衆の面前で臆面もなく幼女を欲しいと申し出た青年。
そんな、異常性の権化でしかない、豪奢な和装で身を飾った痩身の相手に、トヨは驚愕と困惑に頬を引きつらせる。
「宇迦真途―― 先輩……!? どうして、ここに……!?」
「あっはっは、そう驚くことはない。僕のような者でも、時として有象無象のひしめく往来へと身を投じる気分になる時もある。ま、この街の知性と理性に欠けた音色は、僕の感性には些か不快に響くのも確かではあるけどね」
大仰な身振りでそう答えた男は、額へと広く掛かった前髪を、憂鬱そうに右へと流す。
ぎこちない半笑いを浮かべて応えるトヨに、俺は顔を寄せて耳打ちする。
「おい、誰だこいつ? お前、悪いことは言わないから、知り合いとか友人は選んだ方が良いぞ」
「貴様、今なんと言った!? 我らが宇迦真途組の組座たる神を愚弄することは、許さんぞ!」
こちらの囁きをどうやって聞き取ったのか、ウカマドとかいう男の率いていた面々の内、右端に位置していた禿頭の男が、俺の発言を咎める。
突然張り上げられた怒声に、周りを敬遠しながら歩いていた通行人達や、俺の背中に身を寄せていたいろりは揃って身を竦ませる。
不意に辺りへと立ち込める殺気立った空気に、憤怒の形相を作る男の主人であるという神は、彼を穏やかな口調で抑える。
「まあまあ、落ち着け坂鉄。彼は聞くところによると、こちらへ来たばかりの創生者であるらしい。如何に私のような者であっても、未だこちらの水にも慣れぬ身の相手に、顔と名を知っておけと強いるのは酷というものだ」
手下を窘め、相手に理解を示す物腰は、柔らかく温和ではある。
だが、どこか薄笑いの響きを帯びた声や、蔑みの透けて見える眼光は、言外において露骨に俺を見下しきっていた。
もはや典型的でさえある鼻持ちならない態度に、俺は頭の芯が熱を帯び始めるのを感じながら、乾いた笑みを顔面へと貼り付ける。
「いやぁ、でも参ったな。そんな新人な俺をわざわざ、こうして神サマが直々に引き抜きに来てくれるなんてな。あ、交渉の中身次第なら、話くらいは聞いて上げてもいいぜ」
「悪いが、謹んでお断りさせてもらうよ。まだ、何の御伽噺からの創生かも分からない上に、詰まらない喧嘩でやられて警非違使の世話になっているようでは、我が誉ある組座にはまだ相応しくはない。もっと研鑽を重ねてから、出直してきてくれ給え」
含み笑いを込めた揶揄に、他の手下達も追従して喉を鳴らし、笑いさざめく。
霰のように浴びせられる嘲笑に、俺は自分が真顔へとなっていくのを肌で感じた。
頭蓋に籠もっていた熱が急激に冷えていく中、俺は両腕の荷物を足もとへと下ろす。
背後での異変を察したトヨは、慌てて俺の前へと体を滑り込ませ、気障ったくニヤけている癖っ毛野郎へと尋ねる。
「あの、じゃあ先輩はその、この子のために私達に声を掛けられたんですか? えっと、それはまた、どうして………… 」
「下手な誤魔化しは、僕には通じないよトヨオゲ君。創生者の陰に身を潜めているその子は、座敷童の新生者だ。どうだい、図星だろう?」
本来であれば、ここで白を切るか、はぐらかすかした方が良かったのだろう。
だが、真実を言い当てられていたトヨは、予想外の指摘に、偽りのない素直な驚きを示してしまっていた。
「えっ……どうして、それを――――!? だって、まだ彼女を新生させて、そんな―――― 」
「実は、僕の配下には新生者の素となったあやかしの正体を見抜ける、異能の使い手がいてね。その彼が偶然にも君達を目に留めて、僕へと急ぎの知らせを齎してくれたのさ。有能な人材に恵まれているというのも、僕の自慢の一つでね」
得意気に種明かしをしながら、彼は自身の斜め後ろを顎先で示す。
そこには、衣服店で俺が目撃していた不審人物が、仲間の陰へと隠れるようにして立っていた。
俺と同様、思いもかけない展開へと面食らうトヨに、優越感に満ちた微笑に口角を持ち上げ、神であるというその男は改めて告げる。
「という訳で、もう一度言おう。君の組座に属している、座敷童の新生者。彼女を、我が宇迦真途組へと是非とも迎え入れたい。無論、異存はないよね?」




