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異世界ショッピング

 昼下がりの央都は、一層の活気と喧噪(けんそう)()いていた。


 街を縦横に裂く巨大な目抜き通りは、以前よりも更に多くの人混みで埋まっている。

 一方、その頭上にも、車輪のない二輪車のような機械に(またが)った人や、背中に翼の生えた異形の人間達などが、規律立った流れで縦横無尽に飛び交っている。

 

 空と陸の双方を占める、幻想的で非現実な黒山の人だかり。

 それは、俺が元いた世界では、絶対に目にすることのない光景だった。


「ちょっと! 何をあんたまで、ぼさっとしてんのよ陸海! 二人ともはぐれて迷子になんてなられたら困るから、ちゃんと付いてきなさいよ!」


 視覚と聴覚を蹂躙(じゅうりんする、膨大な量の情報に圧倒されていた俺は、騒音を割って響いたトヨの声に我へと返る。

 こちらが正気付いたのを認めた彼女は、困った風に微苦笑を浮かべ、止めていた足を前へと進める。

 再び人の波へと乗った先導者に、俺は周囲の騒乱に固まりきっていたいろりを引き寄せ、今にも消えてしまいそうなその背中を急いで追った。


 依頼を達成した俺達は、その足で央都を訪れていた。

 少し遅めとなっていた昼食を取った後、色々と必需品を買い揃えるのが、主な目的だった。

 

 出汁(だし)の香りを帯びた湯気に満ちた食堂で、四人でうどんを無心に(すす)った後。

 今回の依頼の取り分を受け取った玄月は、独り静かに、街中の人の群れへと消えていった。


「たぶん、正宗工房(まさむねこうぼう)じゃないかしら? 発注していた武器が、もうじき出来上がるって話してたし。残っていた支払いの分を、まとめて済ませに行ったんだと思うけど」


 彼の単独行動へと対するトヨの推測を、俺はふぅんと適当に聞き流した。

 別に、稼いだ金であいつが何をしようが、何を買おうが、俺はあまり興味はない。

 それよりも優先すべきは、俺といろりの服装についてだった。


 間に合わせの着物を与えられていたいろりは、もはや服に着られているといった感じで、余った裾を地面に引き()ってしまっている。

 片や、俺の方も先の彼女との戦闘で、借りていた肌着は到る所が破れてしまっていた。

 その姿はもはや、時代を先取りし過ぎた、ダメージ系ファッションの先駆者といった風でさえあった。


 そんな一風変わった(よそお)いの二人に、街を()く通行人達はいずれも奇異の眼差しを向けていた。

 

 まさか、異世界に住む半獣の人達にさえ、自分が物珍しそうな視線で眺められることになるとは。


 思ってもみなかった立場の逆転へと落ち込む俺に、その気配を察したらしいトヨは、まずは俺達の服を買いに行こうと提案してきた。


「初めにどっちも、互服屋(ごふくや)身形(みなり)を整えましょう! いつまでも、そんなくたびれた格好なんかしていたら見栄えも悪いし、せっかくの運気だって傾いちゃうわ! あと、一緒にいる私まで変な目で見られちゃうし」

「結局自分のためかよ、テメー」


 動機はともかく、彼女からの申し出は願ってもないものだった。

 裏のある好意を受けれた俺は、初めて見る都会の風景に怯えるいろりを引き連れ、トヨの案内に従って中心街へと向かった。


 やがて、混雑した街路を、懸命に掻き分けながら進むこと10分程。

 いずれも奇妙な店構えをした、多くの商店が並ぶ通りの一角でトヨは足を止め、後ろへと付いてきていた俺達の方に体を返した。


「はい、到着! ここの互服屋は男用女用を問わず、子どもから大人まで多くの服を扱っているから、あなた達二人のを一気に調達できてちょうど良いわ。値段も、そこまで張らないし」


 さりげなく加えられた本音には敢えて耳を貸さず、俺は彼女の示す店舗を見る。

 通りに面した壁には、多種多様な極彩色の色硝子(いろがらす)が、モザイク模様に隙間なく敷き詰められている。

 差し込む陽光へと鮮やかに輝く双璧の合間には、()り硝子の()められた引き戸と、その上に掲げられた看板があった。

 木目の浮いた板には、店の名前らしき漢字も彫り込まれていたが、達筆過ぎて俺には良く読み取れなかった。


「じゃあ、とっとと買っていくとしましょう! 今日は他にも、色々と買い揃えておきたい物もあるんだし。時は金なりとは言うけれど、時間はお金で買えないのよ!」

「ご高説どうも。そんなことより、さっさと入ろうぜ。時間の無駄だ」


 俺の素っ気ない返答に渋面を作りながら、トヨは少々荒っぽい仕草で、その(いろど)り豊かな衣服店の出入り口を開け放った。

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