陸海、初めてのお仕事
正式に豊尾刈組の一員となって、初めての仕事。
記念すべきその初任務で、俺に与えられた戦いのための装備。
それは、薄手の手袋に、マスク代わりの手拭といった防具一式。
そして、メイン武装としての竹箒の、お掃除三点セットだった。
「ここも近々、立て直そうと思っておってなぁ。それに先立って中の整理もしたいんだが、家の使用人達はどうにも気味悪がって近付こうとせん。気持ちは分からんでもないが、困ったもんだわい」
「そうなんですか。ご心痛の程、お察しします。ですが、私達が来たからには、もう心配は要りません! 依頼としてお受けした仕事は、豊尾刈組の名と身命に掛けてやり遂げてみせますので!」
「ほうかほうか、それはまた心強いことじゃて! では申し訳ないが、後は宜しく頼むの。儂は母屋に居るゆえ、一段落したら声を掛けてくれい」
案内を終えた恰幅の良い中年男は、快活な笑い声を上げながら去っていった。
遠ざかる広く厚い猫背を、トヨは恭しく一礼をして見送る。
やがて、雇い主の姿が垣根の向こうへと消えたのを見計らい、俺は手にしていた箒の柄で、彼女の脇腹を背後から小突いた。
「うわひゃはっ!? ちょ、陸海あんた、何よいきなり!?」
「何よぅいきなりぃ、じゃねぇよ。どうして、俺達がこんな恰好をして、こんな所にいるんだ? お前の組座ってのは、いつから清掃業者になったんだ?」
社を後にした俺達は、これから豊尾刈組で掃除を行うという、日本家屋風の寂びれた平屋の前に立っていた。
雑草の繁茂した広い庭は、鬱蒼と茂った生垣に囲まれている。
屋根に敷かれた瓦の合間には、所々に下の土台や草の塊が覗いている。
縁側は土埃に黒ずんだ雨戸で固く閉め切られており、少なくとも、最近まで人が立ち入ったような気配はなかった。
俺は前回と同じく、異形の怪物が住む、ダンジョンめいた場所に向かうのだとばかり思っていた。
なので、トヨの先導で街近くの豪邸を訪れた時には自分の目を疑い、そこでトヨから今回の仕事の内容を聞いた際には耳を疑った。
俺は創生者としての力と覚悟を、今回改めて確かめるつもりだった。
なのに、肝心の活動内容が、ただの民家の掃除であるというのは、肩透かしも良いところだった。
冷めた眼差しを向ける俺へと、トヨは不服そうにむくれた表情で睨み返す。
「あのねぇ、私達だって懐事情は苦しいんだから、稜雲で出される神託ばかり待ってる訳にはいかないの! 先立つ金子を稼ぐためにも、例えあんまり気が進まない内容であったとしても、実入りの良さそうな依頼は積極的に熟していかないといけないの!」
「ちなみに、神託とは高天原から稜雲殿を介して下される、公のものとしての組座全体への依頼の事だ。今、俺達が関わっている方は、それぞれの組座が街の者達などから独自に受けた、個別の依頼というものになる。二度は言わん、覚えておけ」
噛んで含めるような彼女の説明を、淡々とした口調で玄月は補足する。
俺の隣に立つ彼は、左腰へと刀ではなく、古びた箒を帯びていた。
「しかも、今回の雇い主は央都でも指折りの大地主! 今回の仕事を上手く達成できれば、報酬も選り取り見取りで思うがままよ! 二人とも、全力全開で気合を入れていきなさいよ!」
「だが、なぁ…………こんなのに本気を出せって言われても、正直気は進まな―――― 」
「付け加えると、この依頼における礼金を余すところなく手に入れられれば、しばらくはまともな食事を取れるだろうな」
「よし、さっさと魂込めて取り掛かるぞ! 目覚めろ、俺の中に眠る浄化の能力っ!!」
「やる気になってくれるのは嬉しいけど、理由おかしくない?」
仏頂面からジト目で睨む彼女を残し、俺と玄月は意気揚々と肩を並べ、打倒すべき穢れた巨大家屋へと立ち向かっていった。




