汐川夏生・秋生 プレティーン
カレンダーをぺらりとめくり
『もう5月も終わりますか』
誠史郎がコーヒーを口にしていると
ガラッ!
勢いよく保健室のドアが開く。
「ったくあいつらムカつくよなぁ」
「ったく。ふざけんなっつーの」
「ちーちゃんお茶頂戴」
男子生徒がどかどかと入って来る。
『うん?一卵性?1年かな?』
誠史郎は彼らの動きを見る。
「ちゃこちゃん?この学校の保健室はケガ人でなく、
もれなくサボり魔で成り立ってるんですか?」
相談室の壁にもたれて誠史郎が首をかしげる。
「ち、違います!汐川君たち教室に戻りなさい」
「まあまあ。あいつらムカつくってことは複数形だよね?
クラスの子?君たち見事な一卵性だねえ。それのせいかな?」
誠史郎が一卵性双生児に声をかける。
「誰だよテメー」
秋生がにらみつける。
『またか入学式での知名度低いなあ』
「あ、あれ、こいつ入学式のときにいたスクールカウンセラー?」
ポツリと夏生が思い出したように言う。
「あら、ありがとう。桜井誠史郎で~す」
ニッコリと双子に微笑む。
「それで君たちの名前は?」
「汐川夏生。こっちは秋生」
誠史郎を見定めるような目つきで夏生が答える。
「ケラスのあいつらさー、超ウゼエ!オレ達のテストの点がいいと、
すげーひがんでHRに髪の毛の事わざとらしく言ったりさあ」
うんざりしたように秋生が座っている椅子をグルグルまわす。
「ふむ。確かに明るい栗毛色だねえ」
「髪の色はともかくテストは僕たちの努力なんだけどね」
夏生もあきれたように言う。
「なーんかさ急に大人ぶった顔しているけど、
3ヶ月前までオレ達ランドセル背負ってたんだぜ?」
「うぜーよ。あいつら」
「反抗期とか来てるからイライラしてんだぞあいつら」
秋生がまくしたてる。
「まあ、僕たちの事気に入ってないことは確かだろうけどね。まだ子供なのさ」
夏生は達観しているようにも見えた。
『ずいぶん性格は対照的だな』
「でも、それを口論で解決するのはよくないわ」
北斗が2人をたしなめる。
すると秋生が夏生に抱きつく。
「ほら。でもこれで安心する。大丈夫」
夏生も秋生を抱きしめる。
「一卵性だねえ。キミ達クラスでもう少しおとなしくしてみないかい?」
「髪の毛のことは学校側も認めていることだし、
いまは扱いづらい2人だけど態度を変えると、
優しいイケメンの双子になっていくかもよ?」
「え~面倒くせえ。てゆーか矯正させてオレ達の個性は、どうなっちゃう訳~?」
『うーんこの子達にポジティブハロー効果は違うかなあ・・・』
「まあムカついたらケンカの前にココにおいで。
話しあいながらその都度考えよう。暴力や口論は何も生まないだろう?」
「あー面倒くさいなあ。ちゃんと考えるんだろうなあ?」
2人声をそろえて言う。
うさんくさい満面の笑みで誠史郎がうなずく。
「もちろん。僕に任せてよ」
お茶を飲みながら
「ちーちゃん、こいつ信用できるの?」
秋生が言う。
「大丈夫よ。桜井先生はきっと力になってくれるわ」
「ふうん。ちぃちゃん泣かさないでね」
夏生が笑う。
誠史郎はVサインで答えた。
「こら、北斗先生です!次の授業には戻りなさい」
あわてて2人を教室に戻す。
笑いながら保健室を出る2人。
「もう、あの子達にも困ったものです」
「まあプレティーンだから仕方ないでしょう。
一番大事な時期ですから私達が見てあげないとね。
あの子達がまっすぐ育つように」
「それが僕達の仕事ですから」