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ギルドでのタイム

 冒険者。


 依頼人からの依頼を受け、任務遂行のために各国を飛び回る。


 その職業は、この世界の子供たちなら誰しもが一度は憧れる職業だという。

 














 というわけで、早速俺は『ギルド』に訪れていた。


 ギルドというのは、冒険者になるために必要な組織だ。冒険者の登録はギルドでしか行うことができない。そしてギルドは冒険者が受ける依頼の仲介や情報の共有を主とする場であり、また同じ目的を持つ仲間を作ることができる場でもある。


 最初の内は大きな依頼を受けることはできないのでドカンと一儲けすることはできないが、それでもその日暮らしはできるそうだ。


 実際この世界においてなんの学歴も持たずフラフラしている俺は、最早ただの無職。冒険者は登録すれば誰でもなれる職業とのことなので、俺は早速ギルドで冒険者登録することにした。



「おじゃましまーす・・・」



 ギルドの中は閑散としている。いくつも置かれている丸テーブル、いくつも紙が貼られた大きな依頼板、大量のアルコールが入っているであろう大樽。自分のイメージ通りの内装ではあるものの、人はまばらで活気づいているようには見えない。とりあえず俺は受付で冒険者登録を済ませることにした。



「すみません、冒険者登録って・・・」


「え? あ・・・はい、こちらでよろしいですよ」



 俺の着ている学校の制服が珍しかったのか、黒いボブカットが印象的な受付嬢のお姉さんは一瞬だけ呆気にとられていたもののすぐに笑顔で対応してくれた。



「それでは、こちらの用紙にお名前をご記入ください」


「はい」



 受付嬢のお姉さんから用紙と羽ペンを受け取る。



 ・・・・・。


 名前の記入欄の上にギルドについての説明が書いてあるようなのだが、アラビア語のような文体で書かれている為になに一つ理解できない。



「あの・・・・・、これなんて書いてあるんですか?」


「え?」



 受付嬢のお姉さんは笑顔で固まってしまった。そりゃそうだ。文字が読めないって、子供じゃないんだから。


 戸惑いながらもお姉さんは優しく微笑んだ。



「え・・・、っと。でしたら、私が代わりに読み上げましょうか?」



 実に優しいお姉さんだった。



「お願いします」


「それでは・・・・・。


 まずこの冒険者ギルドは、依頼者様が出したご依頼を冒険者の皆様にご紹介する、いわば仲介役のようなものです。なぜこのようなシステムをとっているのかというと、依頼者様から直接ご依頼を受けた場合、安全面での問題や金銭的なトラブルに発展する可能性があるからです。ですので、私共の方で依頼者様からのご依頼をレベルごとに分けて冒険者の皆様にご提示することで、そういった問題を未然に防ぐことが出来ます。


 また依頼のレベルは上から『S級』『A級』『B級』『C級』の4つに分けられます。最初は皆様、C級の依頼からスタートすることになりますね。


 また依頼にはポイントがついています。C級ですと、『採集系』の依頼は3ポイント。『討伐系』の依頼は5ポイント。『支援系』・・・依頼者様のお手伝いのようなものですね。この依頼は2ポイントになります。これらのポイントはあくまで基本の目安であって、同じC級の依頼でも難易度によってポイントの数は上下します。


 このポイントを溜めることは、上位の依頼を受けることに繋がります。先ほど申し上げた通り、最初は皆様一様にC級の依頼から始まりますが、30ポイント溜めていただくとその上のB級の依頼を受けられるようになります。


 質問はございますか?」


「いえ、大丈夫です」



 かなり長い説明だったものの、一応内容は全て理解した。まあ他の諸々のことについてはこのギルドにいればそのうち分かってくるだろう。


 お姉さんは「それではご記名を・・・」と言いつつ用紙を差し出すものの、何か考え事をしているようで時が止まったかのように静止してしまった。


 ・・・そうか。字が読めないということは、字も書けないということだ。だからサインしてもらおうにも出来ないのだ。困った困った。


 お姉さんは少し考えて何か閃いたらしく、そっと笑いかけた。



「私が代筆いたしますね。お名前を教えていただけますか?」



 その手があったか。



「あ、湯田匠です」


「? あ、ユダ・タクミさんですね」



 ? なぜ疑問符が?


 

「あ、いえ。すみません。とても珍しいお名前なものですから・・・」


「あっ・・・」



 そういうことか。基本的に名前の作りが違うのだ。


 ということは、こちらの世界の人たちの名前はどういった感じなのだろうか。



「・・・・・、はい。記入完了いたしました」



 お姉さんがそう呟くと、用紙はボンッと小さく音を立てて煙となり、小さなカードとなって煙の中から現れた。



「はい。こちらがユダ様のギルドカードとなります」



 そう言ってお姉さんから小さなカードを手渡される。淡い水色のカードだ。



「依頼を受ける際には、あちらの依頼板に張られている依頼用紙と、そのギルドカードを持ってこちらの受付までお越し下さい。また依頼完了を告げる際には再度ギルドカードを提示していただくことで、カードにポイントがたまると同時に依頼金をお渡しすることになります」


「うわー」



 受付嬢のお姉さんの説明をよそに、俺はカードに目を輝かせていた。


 これが魔法。魔法だ。


 カード一枚にはしゃぐ俺に対し、お姉さんは少々困った顔になりつつも、なぜか子供を見るような慈愛に満ちた目でこちらを見つめていたので、俺は慌ててお姉さんの方に向き直った。



「・・・ごめんなさい」


「ふふっ。いえ、大丈夫ですよ」



 ・・・・・恥ずかしい。子供じゃないんだから。



「そういえば、ユダ様は宿にお泊まりですか?」


「え? まあ、そうですね。今日このまま何か依頼を受けて、そのお金で宿に泊まろうかと」


「でしたら、こんなものがあるんですよ」



 そう言ってお姉さんは一枚の用紙を取り出した。これまた意味不明な文字だらけで、理解するには厳しかった。



「こちらは『寄宿舎制度』に関する用紙になります」


「寄宿舎制度?」



 思わず噛みそうになる。



「はい。基本的に、登録をしたばかりの駆け出しの冒険者の皆様におすすめしている制度になります。


 私共のギルドでは、寄宿舎を設備しております。こちらは駆け出しの冒険者の皆様の生活面を配慮し、ギルドの裏手にあります寄宿舎のお部屋を格安でご紹介する制度となっております。基本的に二人一部屋とさせてもらっておりまして、お部屋によっては男女共同もあります。寄宿舎はギルドのすぐ裏手ですからここへ来るにも時間はかかりませんし、寄宿舎を利用している冒険者様はギルドの訓練場を許可なしで自由に使用することができます」


「なんかすごい良さそうですね」



 宿も安くはない。何日も何日も泊まっていたら金がいくらあっても足りないだろう。それならば、この寄宿舎制度を使わない手はない。訓練場も自由に使えるそうだし、これから体術等を訓練するには打ってつけだろう。


 

「それじゃあお願いします」


「かしこまりました。寄宿舎を利用するにあたり、なにかご要望等はありますか?」


「いえ、特にないです」


「かしこまりました。それでは早速お部屋のご案内をいたしますのでこちらへ」



 受付嬢のお姉さんの後ろについていく。ギルドの裏手の扉を抜けて大きな庭のような場所に出ると、その先にはこれまた立派な建物がそびえていた。


 寄宿舎、というからボロボロのアパートみたいなものを想像していた。が、それは完全に外れていた。


 その寄宿舎はアパートというより、むしろ新築のマンションだ。この高さから言って、数十階建てであることには間違いない。こんなすごそうな所に格安で住んでも良いのだろうか。


 俺が何を考えているのかを察したお姉さんは優しく微笑みながら言う。



「ギルドはまず、冒険者様たちの身の安全が第一ですから。こうして物件の紹介をさせていただくにあたって、皆様の日常生活のサポートもまた、私共ギルドの義務です」



 なんと素晴らしい理念だろう。全国の社会人のみんなはこのギルドを見習うべきだ。


 お姉さんから説明を受けながら、俺たちは寄宿舎の中に入った。しかし中は、床に大きな星形のサークルがあるだけで他には何もない。


 疑問に思っていると、お姉さんは「11階になりますね」と言ってそのサークルの方へ向かう。なにをするのかさっぱり分からないが、とりあえずお姉さんと同じようにそのサークルの中に入ってみた。


 するとどうしたことだろうか。一瞬もしない内に目の前の景色は先ほどとはまったく違うものになっていた。



「こちらが11階になりますね。お部屋までご案内します」



 どうやらいつの間にか11階に到達していたらしい。あんな一瞬で。


 これも魔法か。なんでもアリだなー、魔法。


 と思いつつもお姉さんに着いて行くと、お姉さんは『D-423』と書かれたプレートが張ってある木の扉の前で立ち止まり、ノックした。


 ノックして少しすると、ドタドタと足音が聞こえ、やがてその扉が開け放たれた。



「はいはい。あれ、セーナちゃん? どしたの?」


「はい。本日からこのお部屋に住むことになった方をご紹介します。こちら、ユダ・タクミさんです」


「ユダタクミ? ふーん・・・・・、なるほどねー・・・・・」



 同部屋の人、女性なの・・・?


 いや、お部屋に関して特に要望はないとは言ったけれど。言ったけれども、普通に考えて男の部屋に入れるだろうに。


 どないしよう・・・、と少し固まっていると、『D-423』の住人の女性は俺の顔をジロジロと見て言った。



「・・・・・セーナちゃんも、優しい顔してワルだねー。男の子とあたしを同じ部屋にするだなんてさ」


「へ?」


「はい? 男の子・・・・・て、ええ!?」


「・・・・・あの、もしかして、男だって気づいてませんでした?」



 先ほどまで完全に『出来るお姉さん』だった受付嬢のお姉さんは顔を真っ赤に染めてしまった。本当に俺のことを男だと思っていなかったらしい。



「ご・・・・・ごごごごごめんなさい! 本当に・・・すごく可愛らしいお顔でしたから、私てっきり・・・その・・・!」


「・・・・・」



 なんというか。


 男と見られていなかったショックよりも、


 出来る女も失敗するんだなあ、ってちょっと思った。

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