夢のタイム
「ほれ、早く起きろ」
「ん・・・んぅ・・・?」
目を覚ますと、そこは真っ白な空間。地面も壁も天井もない、本当にただ真っ白な空間だった。
「ここは・・・?」
「君の夢の中だ」
聞き覚えのある声が聞こえたので後ろを振り向くと、憎きあの黒マント不審者ジジイがそこにいた。どの面下げてノコノコ現れたのだろうか。ここで会ったが百年目。どうしてくれよう。
「おい、なにか不穏な空気が感じられるんだが。・・・まあいい。君の夢の中に入ってきたのにはワケが・・・ブフゥ!? ・・・オイ、何故ビンタをした!」
「いや一発浴びせないとこちらの気が済まないので。どうぞ続けて」
「老人相手になんつーことを・・・。まったく、続けるぞ? 私が君の夢にこうして現れたのは、君にあるものを授けるためだ」
黒マントは頬をさすりながらそう言った。
「良い心がけですね。俺も突然こんな世界に来て困ってたんですよ」
「飲み屋の店主たちに無銭でメシを奢ってもらい、挙げ句に泊めてもらった君がそれを言うのか! 以前の世界よりずっと悠々自適に過ごしていただろうが!」
「人の生活を盗み見ていたんですか? 本格的な不審者、いえそんな曖昧な呼び方ではなくハッキリ言います。ストーカーですよ、ストーカー」
「グッ! ・・・ええい! 仮にも神に向かって何を・・・!」
・・・・・。
神ですって。このおっさん、挙げ句の果てに神ですって。
「あ。いや、ちょ、タンマタンマ。うそうそ、神とかマジそんなんあり得ないから」
「キャラ崩れてますよ」
完全に取り乱している黒マント。この反応を見るに、どうやらこのおっさんは不審者ではなく神様で間違いないらしい。・・・・・どう見てもそうは思えないが。
「それで神様。俺に渡すものがあるんですよね?」
「いや私は・・・・・、まあいいか。神だとバレたところで問題はない」
「じゃあなんであんな取り乱したんですか」
「いや、実は怖い部下がだな・・・ウェッホン! ゴホンゴホン!」
実に哀れな神である。これは部下にいじめられる上司の典型かもしれない。
「まあそんな話は置いておいて・・・。君には『時を制御する力』を授ける!」
「おおー」
「使い方は至ってシンプル! 『なんかちょっと時止めたいな』って時にムムッと念じれば、簡単に時が止まる!」
「なんと」
「また、時を動かすのもムムッと念じるだけだ! どうだ、驚いただろう!」
「すごーい」
「・・・・・本当に驚いとるのか君は」
素直に驚いている。今まで自由に動かせなかった時間が、まさか自分の思い通りになるなんて。俺には最早敵なしなんじゃないだろうか。
「実際に使えるのかどうか、起きたら試してみると良い」
「どうもです」
黒マントがその場を去ろうとする時、「そういえば」と何かを思い出したように付け足した。
「おそらく私の部下が、君の世話役としてそっちの世界に降りるだろう。その時は仲良くしてやってくれ」