異世界のタイム
「オイ坊主、この衣装見た事ねえな。どこかの民族衣装かなんかか?」
「やだこの子可愛いわぁ〜。連れて帰っちゃおうかしら!」
「おい坊主。せっかくだからメシ食って行けよ」
「おいまてよ。この坊主はウチでメシを食うんだ」
「あんたらみたいな野蛮な店に行かせるわけにはいかないわ。私の店で食べさせるから!」
困ったことになった。どうやら本当に異世界に来てしまったらしい。
とりあえず今、俺が置かれている状況を説明する為に、少し過去に戻ることにしよう。
「ん?」
目を開けると、道の真ん中で俺は突っ立っていた。
「あれぇ?」
ここがあの黒マントが言っていた『異世界』なのだろうか。確かに犬とか猫っぽい顔をした人たちが歩いてはいるが、だからと言って決めつけるにはまだ早い。
少し考えていると、道を歩く人たちが俺のことを横目でチラチラと見ていることに気づく。
石畳の通路の両脇にはたくさんの店が建ち並び、見た事のない食べ物や道具が売られている。おそらくここは市場なのだろう。確かに道の真ん中で突っ立っていたら邪魔なはずだ。
俺自身、あまり人の多いところは得意ではないのでそそくさとその場を立ち去った。
しばらく歩いていると、大きな広場に出た。中央には大きく背の高い噴水が建てられていて、子供たちはそこから出る水を浴びながら遊んでいる。
俺は石で出来たベンチに腰掛けて、休憩ついでに周囲を観察してみた。そうして見ていると、確かに今まで俺が住んでいた世界と異なる点がたくさんある。
鎧を身にまとった兵士風の男が普通にそこらにいたり。
水で出来た竜を操る芸をする大道芸人がいたり。
やたら耳が長くてきれいな女性がいたり。
動物と人間を足して2で割ったような顔の人がいたり。
ボロ布で出来た服を着て物乞いをする子供がいたり。
俺が知っている世界とはまるで違う常識が、この世界にはあるように思えた。しかし、まだ早い。まだ異世界だと決めつけるには早計だ。海外に行けば、兵士がそこらを歩いてたり特殊メイクをした人が買い物をしていてもおかしくはない。そう、なんらおかしくはない。
俺はとりあえず情報収集を行う為に、再び市場に戻り話を聞く事にした。
その結果がこれだ。
「だーかーらー、この坊主はウチでメシをだなぁ!」
「あんたらみたいなとこで、こんな可愛い子がご飯だなんてあり得ないわよ!」
「ウチの味は絶品だ! お前らみたいな安酒振る舞うような店とは格が違ぇ!」
市場を抜けた所にある、定食屋や居酒屋が並ぶその場所で話を聞いていると、俺はどうやら気に入られてしまったらしく、こうして店主たちは問答を続けている。このままこうしていても埒が開かないということで、店主たちは俺に問いを投げかけた。
「坊主、どの店でメシを食うんだ!?」
「そうだ、坊主の意見を尊重しなくちゃあな!」
「アタシんとこのご飯はおいしいわよぉ!」
とは言われても。
「お金、持ってないので」
この一言で、とりあえずこの場は収束した。