お気に入りのタイム
「あ、湯田くんだ」
「湯田っち、オハー」
「湯田くん、今日の英語かかるよね? 予習してきてあるから、良かったら見て?」
「湯田! 昼休みに3組とサッカーすんだけどやらね?」
俺は無愛想だ。特にこれといって面白いことは言えないし、あんまり笑わないし。
でもどうやら、周りからはユーモアに溢れた人間に見えるらしい。俺は普通に生活しているつもりなんだけど。
だから中学高校と、何不自由なく学校生活を送って来れた。ひとりぼっちで過ごすことも覚悟していたけれど、常に周りには人がいた。
とは言っても、人付き合い自体は苦手な方だ。クラスメイトと話していて、疲れることもある。
だから俺は、たまに訪れる『この時間』を大事にしている。
「あ、止まった」
突然、教室の喧噪がピタリと止んだ。俺に話しかけていたクラスメイトたちも完全にその動きを止めて、こちらを静かに見つめるだけの像と化している。
何が起きているのかというと、ただ単純に、時間が止まっているだけ。
この現象は、高校に入学してから頻繁に起こり始めた。周囲の人や物は、活動している最中にも関わらずピタリと動きを失くす。そしてしばらくすると、何事もなかったかのように活動を再開するのだ。
その静止した時間の中で唯一活動することができる俺は、その間はいつも眠っている。日々のストレスを眠りでしか消化することができない俺は、その時間を学校生活における心のオアシスだと考えている。これで授業中に眠ることもなく、スムーズに学校生活を送ることができるのだ。
俺はこの静止した時間を、とても気に入っている。