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ネコと、魔法使い  作者: 夜斗
第1章  《プロローグ》
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遠い昔の雨の日に

「ねぇ、どうしたの?」


 私にそう訊ねられても、女の子は答えなかった。

 女の子は大の字で仰向けに倒れたまま、冷たい雨が降り注ぐねずみ色の空を、虚ろな瞳で、虚ろなまま見上げている。


「ねぇ、何か言って頂戴よ。何か言ってくれなきゃ、私だって分からないわ」


 手を差しのべられても、女の子は応えなかった。

 光の消えた瞳に映る私の姿もまた虚ろで、生きる意志を完全に失くしてしまった人間のように、生気がまったく感じられない。


「お名前は?」


 名前を訊ねた時、女の子の黒い真珠のような瞳がほんの少しだけ揺れ動いた。

 まるで、転んで出来た傷口にうっかり触れてしまった時のように、ふるふると小さく震えだした。


「…………な、い。私に、名前、なんて……ない」


 たった、それだけ。

 雨粒でぬれた唇を小さく動かして、か細い声でそう答えてくれた。

 そうして答えてくれた女の子の目尻に、雨粒とは別の小さな雫が溢れだす。


「ねぇ、どうして泣いてるの? 悲しいことがあったの?」

「……だって…………だっ……て……ぇ……」


 女の子の声は尻すぼみに小さくなっていって、やがてさめざめと降り注ぐこの雨のような嗚咽を漏らす。


「私は……わた……し、わ…………」


 雨と涙と、それから鼻水とでぐしゃぐしゃになった顔のまま、女の子は私にこう言った。



 私は――“失敗作”だと。

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