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1.目覚める華

 

  

 

 懐かしい、ようやく帰ってきた。


 何故かそう思ってしまった。

 目が覚めると、見知らぬ女性が自分を見つめている。

 銀色の髪、白磁の肌、碧い瞳、そして長くとがった耳。まともな人間ではない。少なくとも自分の知ってるどの人種とも違う。

 顔立ちの整ったとんでもない美人だ。会ったこともない筈なのに、どうしてこんなに懐かしく感じるんだろう?

 ゴポリと、そんなまるで水が抜けるような音がした。ゴポゴポと何かの液体が足元から抜けていく。

 そうか、自分はこの液体に浸かっていたのか。

 周りを見渡すと、円筒形の透明なガラスのようなものに閉じ込められていた。

 液体が完全に抜けきると、ガラス?は上へスライドする。

 眩暈。

 この体はずっと液体に浸かっていた、まるでホルマリン漬けの標本みたいに。

 体を支えていた浮力がなくなり、その代わりに重力が干渉してくる。

 立っていられない。たまらず前のめりに倒れこむ。

 顔から床(なんだかとても堅そうな)に激突する寸前、柔らかい何かが体を支えてくれた。

 さっきからこちらを見ていた女性だ。

「大丈夫?気持ち悪かったり、違和感とかない?」

 外見を裏切らない透明感のあるクリアな声。綺麗だ、耳に心地いい。

「これ、何本?」

 体勢を立て直し、人差し指を自分、いや私の顔の前に持ってくる。指も綺麗、白魚のようなとはこのことだ。

「…一本」

 枯れた、ひび割れたが喉から出た。随分長いこと声を出してなかったような、そんな気がする。

「・・・私のことがわかる?」

 わかる?とはどういうことだろう?

「綺麗な女の人…」

 そう答えると、少し哀しそうな表情をした女性は、「…そう」とだけ言ってそのまま何も話すことなく、私の体を布で拭き始めた。

 


 

「華?」

 簡素な膝まである丈がある、チュニックににた服を着せられ大きな鏡の前に立つ。

 姿見に映る己の容姿に驚愕する。

 黄金色に輝く腰まである長髪。ここまで伸ばした覚えはない。

 更に、頭部にあからさまな異形がある。両耳のやや上辺りに、金属の色と陶器の質感を兼ね備えた角のようの物が後ろ上方向に伸びるように生えている。

 瞳の色もありえない。紅玉石ルビーのような真紅、それも最高級のピジョン・ブラッド。

 新雪のような肌色もおかしい。こんな肌の人間がいる筈がない。

 その白い肌に奇妙なモノがあった。首の下、乳房の中心部やや上に華の紋様。薔薇を髣髴させる六枚の花弁、黒と紅い花びらが交互に配置されている。

 年齢は16~17歳くらい、人形のように整った造詣の少女。

 これはホントに私か?

「その体は間違いなく貴女のモノよ」

 私を介抱?してくれた綺麗な女の人、アウラはそう断言してくれた。

「…でも私の記憶では黒髪黒瞳だった…」

 鏡から視線を外せず、呆然とつぶやく私。

「…自分の名前、言える?」

 おかしなことを聞く。

「そりゃまぁ」

 産まれてから付けられ、物心つく頃から認識し、つき合ってきた大事な名前だ。言えない訳がない。

 …その筈だった。

「…あれ?確か…私は…」

 言えない。十数年付き合って筈の自己を認識するのに必要な自分の名前を言えない。

 いや、思い出すことが出来ない。

「…私…どうして…」

 ヤバイ。どうしよう。動悸が高まる。冷や汗が出始める。

 パニックになる寸前だった。

「ジゼル」

 背後からの綺麗で力強い声。

 振り向くとアウラは私を見つめていた。迷いのない眼差しだ。

「貴女の名はジゼル。そう名乗りなさい」

 ジゼル。

「…ジゼル…」

 口に出してみる。崩れ落ちるようだった精神は、どうにか安定した。

 ジゼル。私はジゼル。

 とりあえず、これでいい。


 そして。

「ようこそジゼル。ここは貴女がいた世界とは別の世界。ここでの生活が、貴女の新しい人生が、どうか笑顔で満たされますように」

 アウラは輝く笑顔でそう言った。


 

 


 

   

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