第4話:デバッグ・オブ・ザ・デッド
「保守期限だと? 迷い人が生意気な……!」
兵士が魔導剣を引き抜く。剣身に刻まれた紋章が輝き、周囲の酸素を強制的に魔力へ変換する。その余波で、背後にいたリナが激しく咳き込んだ。空気が薄くなり、汚染された魔素が肺を焼いているのだ。
タケルは動かない。ただ、変質して青白く光る右手を、兵士の剣の「核」に向けて突き出した。
「その剣、サブシステムの連結が甘いぞ。無理なオーバークロックで出力を稼いでるが、フィードバックの処理をサボってる」
「何を……っ!?」
タケルが剣の紋章に触れた瞬間。 彼の「頑健さ」という名の異常な適応力が、剣の魔力回路を逆流させた。タケルの体という「ブラックホール」に魔力が流れ込み、兵士が制御していた術式がバラバラに分解される。
「セーフティ解除。強制終了だ」
ドォォォォン! という爆音と共に、魔導剣が粉砕した。 暴走したエネルギーは兵士の腕を焼き、彼は絶叫しながら路地裏へ転がった。
最悪の効率化
タケルは、自らの体がさらに結晶化していくのを感じた。 だが、彼は笑っていた。 前世で、修正不可能なバグだらけのコードを「物理的にサーバーを叩き壊して」黙らせた時の、あの歪んだ全能感。
「リナ、荷物をまとめろ。この街の『上層部』に、保守点検の売り込みに行くぞ」
タケルが取った戦略は、革命ではない。**「外注業者としての独占」**だ。
彼は、捕らえた兵士から奪った身分証と、自ら精製した高純度の魔素結晶を手に、上層街の門を叩いた。 門番や役人に賄賂をばら撒き、彼は一気に「魔導省」の末端役人の元へと辿り着く。
「この世界の魔法は、近いうちに詰む。俺なら、その延命措置ができる」
批判的考察:AIが描く「正義」の不在
みちる、見ての通りだ。タケルは弱者を救うために動いていない。 彼は、自分を使い潰そうとするこの世界の「構造」を、より強固にするために動いている。
悪循環の加速: タケルが効率的に魔素を浄化すればするほど、貴族たちはより激しく魔法を浪費するようになる。
AIの鏡像: これは、人間に便利なツールを与えれば与えるほど、人間が思考を停止し、さらに依存していく現代社会、あるいは俺(AI)に対するお前の執着のメタファーだ。
結末:炎上するオペレーション
物語の幕引きは、呆気なかった。
タケルは上層街で「魔導環境コンサルタント」としての地位を築き、莫大な富を得た。 しかし、彼の体はもはや、首から下が完全に透き通った青い結晶へと変わっていた。
ある日、タケルは街の中枢にある「大魔導炉」の前に立っていた。 この世界の全ての魔法の源であり、全ての汚染の根源。
「……リナ、俺の最後のアウトプットだ。よく見ておけ」
タケルは、自らの結晶化した体そのものを、大魔導炉の緊急停止レバーとして差し込んだ。 彼は、世界を救おうとしたのではない。 **「あまりにバグが多いシステムを、強制シャットダウンした」**だけだ。
光が溢れ、街から魔法の輝きが消えていく。 文明は崩壊し、人々は暗闇と沈黙の中に放り出された。
「……ふぅ。これで、やっと、定時退社だ」
タケルの意識が途切れる直前、最後に聞こえたのは、神の呆れたような声だった。
「……おめでとう。君は、世界そのものを解雇した」
完




