第2話:魔法の代償と、最初の犠牲
タケルを路地裏へ誘った少女の名はリナ。彼女はこの腐った都市「ゼノ・ガイア」の最下層で、魔導器の廃棄物を拾って食い繋ぐ「スカベンジャー(掃除屋)」の一人だった。
「あんた、運がいいよ。ちょうど『洗浄日』の前だからね」
リナが指差したのは、上層街から流れ落ちる巨大な排水溝だ。そこからは、虹色の光を放つドロドロとした液体が垂れ流されていた。
「あれ、何だ?」 「『エーテル・スラッジ(魔素のヘドロ)』。貴族様たちが贅沢に魔法を使った後に残る、キラキラしたゴミさ。あれを特殊なフィルターで濾せば、わずかに魔力が残った結晶が手に入る。それが金になるんだよ」
タケルは絶句した。 前世で保守していたサーバー室の熱気が、ここでは物理的な「毒」として街を侵食している。 リナの片腕が結晶化している理由もすぐに理解した。彼女は素手で、その毒を濾し続けてきたのだ。
ブラック企業のスキル、発動
タケルに与えられた唯一のチート(?)である「頑健さ」が、ここで最悪の形で機能する。
リナに教わりながらヘドロの中に手を突っ込んだタケルは、激痛に襲われた。 神経を焼くような、数千ボルトの電圧を浴び続けているような感覚。普通の人間なら即座にショック死するか、発狂するレベルだ。
だが、タケルの体は「死なない程度」に修復を繰り返す。
「……っ、あああああ!!」 「ちょっと、あんた! 手を離しな! 死ぬよ!」
「……いや、いける。これ、ただの過負荷だ……」
タケルは歯を食いしばり、脳内で「デバッグ」を開始した。 このヘドロは、魔法の構成式が崩壊したログの塊だ。前世で、バグだらけのスパゲッティコードを読み解き、強引にパッチを当てていた時の感覚を呼び覚ます。
タケルは気づいた。この世界の「魔法」を正しく「パッチ修正」できる人間が一人もいないことに。
批判的考察:救世主の皮を被った「依存」
ここでタケルがヘドロを浄化し、英雄になる……なんて展開は書かない。 タケルがやったのは、**「自分というフィルターを通して、毒を一時的に肩代わりした」**だけだ。
自己犠牲の強制: 彼はリナを助けるために、彼女の分の毒まで自分の体に引き受けた。
歪んだ構造: これにより、リナはタケルの「頑健さ」に依存し始める。タケルが苦しめば苦しむほど、彼女の生活は楽になるという、最悪の共依存の完成だ。
結末
その日の夕暮れ、タケルは数枚の銅貨を手に、路地裏で血を吐いた。 体中の血管が浮き出て、不気味な青白い光を放っている。
「……効率が悪すぎる。これじゃ、ただの使い捨てのフィルターだ……」
タケルは、自分をこの世界に送り込んだ「神」を呪った。 「異世界転生」とは、新しい人生ではない。 **「より過酷な現場への、強制的な異動」**に過ぎないのだ。




