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氷の伯爵は野薔薇に跪く  作者: Lucy M. Eden


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6/10

絶望の雨、あるいは窓越しの咆哮

空は、ソフィアの心を写し取ったかのように、急速にその明るさを失っていった。昼間までの柔らかな陽光はどこへ消えたのか、重く垂れ込めた雲がハザウェイ邸を包囲し、やがて大粒の雨が石造りの屋敷を叩き始めた。


ソフィアは、庭園の隅にある小さな庭師の小屋にいた。石造りの壁は湿気を吸って冷え切り、窓の外を流れる雨音だけが、不気味なほど大きく響いている。彼女はランプも灯さず、ただ暗がりに座り込んでいた。


(……『道具』……『留守番』)


イザベラが放った嘲笑と、エドワードが冷酷に言い放った言葉が、何度も、何度も、彼女の胸の奥で鋭い氷の欠片となって降り注ぐ。昨夜、あの書庫で自分を見つめていた熱い瞳。壊れ物に触れるような指先の震え。あれはすべて、孤独な主人が一時の気まぐれで見せた、残酷な幻想だったのだろうか。


その時、雨音に混じって、小屋の扉を激しく叩く音がした。


「ソフィアさん!開けてくれ、ソフィアさん!」


オリバーの声だった。ソフィアはハッとして立ち上がり、震える手で扉を開けた。そこには、ずぶ濡れになりながらも、必死な形相をしたオリバーが立っていた。


「オリバーさん……!なぜ戻ってこられたのですか。伯爵様に見つかったら……」


「あんな男の顔色なんて、もうどうでもいい!聞いたよ、さっきの罵り言葉を。君を道具だなんて……あんな冷酷な男のそばに、一秒だって君を置いてはおけない!」


オリバーは強引に小屋の中へ踏み込むと、冷え切ったソフィアの肩を強く掴んだ。その手は温かかったが、今のソフィアには、その温もりがかえって痛々しく感じられた。


「頼む、ソフィアさん。今すぐ荷物をまとめて、僕と一緒にここを出よう。あんな呪われた屋敷に、君の優しさを浪費してはいけない。僕が、君を本当の幸せが待つ場所へ連れて行く。……さあ、行こう!」


ソフィアは、オリバーの差し出した「救いの手」を見つめた。これを受け入れれば、あの冷たい眼差しに怯えることも、身分という高い壁に絶望することもなくなるだろう。だが、彼女の視線は、無意識のうちに雨に煙る本館の二階――あの書庫の窓へと向けられていた。



***



同じ頃、エドワードは書庫の暗闇に立ち尽くしていた。窓枠に置かれた彼の右手は、白くなるほど強く石の縁を握りしめている。窓の外、雨に濡れる庭師の小屋の中に、二つの人影があるのを、彼は見ていた。オリバーがソフィアの肩を抱き、彼女を連れ出そうとしている光景を。


「……行け、ミス・ソフィア。行けばいい」


エドワードは喉の奥で、獣のような呻き声を漏らした。彼女を奪いに行きたい。あの男の手を叩き切り、彼女を自分のこの腕の中に閉じ込めて、二度と誰にも見せないように隠してしまいたい。そんな荒々しい独占欲が、心臓を内側から突き破りそうに暴れ回っている。


だが、彼は動かなかった。窓の向こうに見える彼女は、自分のような「呪われた野獣」よりも、あの光の中にいる青年と共にいる方が、ずっと美しく咲き続けられるのだと、自分に言い聞かせ続けた。


彼はあまりの情動を抑えるために、銀の杖を床に叩きつけた。――ゴン!


鈍い音が静寂の書庫に響く。


「……お前を幸せにするのは、私ではない。……私ではないのだ」


エドワードは、自らの心を引き裂くような思いで、窓辺から目を背けた。だが、その瞬間。小屋から飛び出してきたオリバーが、独りで馬に飛び乗り、雨の中を走り去っていく姿が、再び彼の視界に飛び込んできた。


ソフィアは、ついて行かなかった。彼女は小屋の入り口に立ち尽くし、ただ独り、雨に打たれながら、じっと屋敷の窓を見上げていた。


エドワードは、止まっていた心臓が再び激しく脈打つのを感じた。雷鳴が轟き、一瞬の光がソフィアの悲しげな、しかし揺るぎない意志を秘めた瞳を照らし出す。


「……なぜだ。なぜ、行かない……」


エドワードの独白は、激しい雨音にかき消された。二人の間には、厚い石壁と、容赦ない雨、そしてあまりにも遠い身分という隔たりがあった。それでも、二人の魂は、嵐の闇の中で、狂おしいほどに互いを呼び合っていた。

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