第三章 公式街道と王の不満
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フィルドの街の喧騒を背に、二人は北へ向かう公式の街道を歩いていた。
ライエルは、詠美から預かった「魔王城の秘匿の地図」と名付けられた焦げた紙切れを、細心の注意を払って革袋の最も奥深くに押し込んだ。
二度と日の目を見せないという、彼の静かな決意だった。
「いいか、詠美。『ロード』とやらの『直感』は今後一切信用しない。この街道は、北東にある次の商業都市『マルツァ』に繋がっている。この国で最も古い、信頼できる街道だ」
ライエルは、懐から取り出した王室御用達の羊皮紙の地図を広げ、詠美に指し示した。
その正確な線と、優雅な装飾は、詠美の焦げた地図とは比べ物にならない。
「フン。貴様のその『野蛮な写し絵』が、私の『運命の導き』に敵うとでも思っているのか、騎士よ!」
詠美は、全身から不満のオーラを放っていた。
彼女が着ているのは、相変わらず地味な生成りのワンピース。
その手には、昨日拾った木の枝が「真・暗黒聖剣の代用品」として握られている。
「チッ……この道ときたら、平坦すぎるではないか!『ロードの試練』と呼べるほどの起伏もない!魔力の波動も感じられん!」
彼女の言う通り、街道はよく整備されており、遠くに時折見える行商人や、馬車が、安全性を保証していた。
「安全なのは良いことだ、詠美。無駄な危険は避ける。それが任務遂行の基本だ」
ライエルは冷静に答えたが、詠美の不満は止まらない。
「安全だと!?王たる私が、こんな『一般庶民の散歩道』を歩くなど、屈辱以外の何物でもない!せめて、貴様が『馬車』を献上するのが道理であろう!」
「金がない」
「何だと!?王に対する『経済的忠誠心』を欠いているではないか!騎士の給金は、その程度か!」
「お前を連れたせいで、昨日、衛兵団からの報奨金は全て服代に消えた。しばらくは、野営と干し肉だ」
ライエルは表情一つ変えずに、自らの干し肉を詠美に奪われた事実を思い出させ、冷酷に宣言した。
詠美は思わず顔を逸らした。
「チッ……このロードの『エネルギー源』となったことを誇りに思うがいい」




