第二章②
2
数分後、ライエルが詰所から戻ってきた。
彼の腰には、報告を終えた証であろう、一回り大きな革袋がぶら下がっていた。
「終わったぞ。行くぞ、詠美。宿屋を探す」
「フン。遅かったな。王たる私を待たせるとは、忠誠心が足りぬぞ、騎士!それに、私を『ロード』と呼べと何度言えばわかる!」
詠美は口の周りをリンゴでベタベタにしながら、文句を言った。
ライエルは詠美の姿を見て、無言でハンカチを差し出した。
「……何だ?」
「口を拭け。みっともない」
「チッ。王の食事作法を心得ておらぬな!よかろう。貴様の忠誠の証として、使ってやる!」
詠美はハンカチで乱暴に口を拭き、ハンカチをライエルに返した。
ライエルは顔を顰めながらも、それを雑に受け取った。
「いいか、詠美。宿屋に着いたら、まずは着替えだ。その服はもう着るな」
「誰が着るものか!貴様がこの王の聖衣を、アイロンで伸ばして持ってくるがよい!」
「『アイロン』。それは何だ?」
「だから、熱と蒸気で聖衣を美しく整える『文明の利器』だ!この街にはないのか!?」
ライエルは呆れたように首を振った。
「そんな魔道具は聞いたことがない。着替えを新調する。ついてこい」
彼は詠美を連れて、布や衣服が並ぶ小さな店に向かった。
「フン!貴様、王たる私の『真の衣』を選ぶつもりか?よかろう。私が認められるか試してみろ!」
店の中で、ライエルは地味な茶色の木綿の服を指さした。
「これを買え。目立たぬ服が、この街では一番安全だ」
「な……ッ!こんな土色の平民服を王たる私が着るだと!?許さん!私の真の衣は『漆黒』!もしくは『深紅』!そして『金』の装飾が必要だ!」
詠美は店内の隅に吊るされていた、刺繍の施された豪華なケープを指さした。
「あれだ!あれこそが、私の『第二の聖衣』にふさわしい!」
しかし、値札を見たライエルは即座に首を振った。
「無理だ。お前を連れたせいで、今日の任務で得た報奨金が全て吹き飛ぶ」
「何だと!?王の衣に『予算』を持ち出すとは!貴様は忠誠心だけでなく、経済力も無いのか!」
二人が騒いでいると、店の主人が奥から顔を出した。
「おや、お客さん。そのセーラー服のお嬢さんは?うちの服がお気に召さないようで」
「フン。貴様の店の『平民服』など、このロードの聖衣の足元にも及ばん!」
ライエルは店の主人に謝り、詠美の口を塞いだ。そして、店の一番安価な、生成りのワンピースを指さした。
「これにしろ。文句を言うな」
「くっ……!仕方ない。これは『隠密行動用仮の聖衣』だと心得よ!」
結局、詠美は渋々その地味なワンピースに着替えた。セーラー服はライエルの革袋に、さらに深く押し込まれた。
「フン!覚えておけ、騎士!私の『漆黒の戦闘服』が再び日の目を見る日を!」
詠美の不満は募るばかりだったが、目立たなくなったことで、街の人の視線からは解放された。
こうして、「ウザい王」と「冷徹な騎士」のフィルドでの旅が始まった。彼女の真の故郷への道のりは、まだ始まったばかりである。




