第十五章④
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ライエルは、心の中で「ごめん」と謝りながら、騎士として最後の責務を果たした。
彼は、冷酷な表情を崩さず、詠美に背を向けた。
「嘘ではない、詠美。結界は開いた。行くぞ」
ライエルは、詠美を振り返ることなく、魔王城へと向かって歩き始めた。
その場に残された詠美は、膝から崩れ落ちた。
彼女の力が、『究極の絶望』によって発動したことを、彼女は知る由もなかった。
彼女の頭の中には、「騎士に捨てられた」という事実しか残っていなかった。
「あ……ああ……」
その時、ポチが詠美に寄り添い、優しく鼻を擦りつけた。
ミリーがクッキーの袋を置いて、詠美の肩に手を置いた。
「大丈夫よ、詠美。騎士さんは、嘘つきよ」
ミリーは静かに言った。
レオンハルトは、悲劇のヒロイン然とした詠美の姿を見て、静かにため息をついた。
「ハァ……騎士くん、とんだ『悪役』を買って出たものだ。彼は、君を『絶望』させたかったのではない。ただ、『君の力が必要だった』。そして、『君に嫌われてでも、目的を果たすべき騎士』だった、というわけだ」
ゼルガディスは、ロープを引きずりながら、城の入り口を指さして叫んだ。
「見よ、王よ!『愛の拒絶』こそ、『終焉の道』!今こそ、『絶望』を胸に、『真の王』として城へ進むのです!」
詠美は、顔を上げ、涙を拭った。
彼女は、『騎士の裏切り』という、人生最大の屈辱を、再び『厨二病の設定』に昇華させようと決意した。
「フ、フン!……そうか!分かったぞ!騎士め!貴様は、私に『究極の絶望』を味合わせることで、『王の真の力』を引き出そうとしたのだな!つまり、『最高のドSな愛の鞭』というわけだ!チッ……相変わらず『卑怯な手』を使う!だが、この王、その『愛の試練』、受けて立つ!」
詠美は、『騎士の自己犠牲』を『ドSな愛の鞭』と誤解し、再び立ち上がった。
彼女の目には、『裏切りへの怒り』と『ドSな愛への高揚感』が混ざり合っていた。
こうして、詠美は「騎士に振られた絶望」を胸に、魔王城へと踏み込んだ。
ライエルは、自分の『裏切り』が、詠美の『不治の病(恋心)』を、さらに拗らせる燃料になったことに、気づく由もなかった。




