第十三章③
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夜が深まり、野営地が静まり返った頃。
ライエルが、焚き火の番をしながら、皆の様子を確認していた。
レオンハルトとゼルガディスは、寝言で「フリル」と「孤独」を囁き合っている。
ミリーとポチは静かに眠っている。
ライエルは、岩場で寒さに震える詠美の姿を見て、静かに立ち上がった。
(ミノタウロス戦の後だ。体が冷えているだろう。風邪でも引かれては、魔王城に着く前に『不治の病』で本当に倒れてしまう)
ライエルは、自分の分厚い衛兵団のコートを、詠美の体にかけてやろうとした。
彼の行動原理は、「ロードの管理」である。
その瞬間、詠美が「騎士の優しさ=究極の愛の罠」と誤解し、バネ仕掛けのように飛び起きた。
「な、何をする!騎士!貴様、この『王の孤独』に『温かい毛皮』という名の『愛の罠』を仕掛けるつもりか!このコートで私を包み込み、『究極の相思相愛状態』に陥れるつもりか!」
詠美は、ライエルのコートを「毒リンゴ」のように嫌悪し、思い切り払いのけた。
「フン!貴様の『温情』など、このロードには通用せん!私の『不治の病』は、『究極の孤独』によってのみ治るのだ!貴様の『愛』は、私には『毒』だ!」
ライエルは、コートを持ったまま、冷徹な目で詠美を見つめた。
その目には、「本当に面倒くさい」という諦めと、「でも、風邪を引かれるわけにはいかない」という責任感が混ざっていた。
「分かった。勝手にしろ、詠美」
ライエルは、ため息をつくと、コートを自分の腕に戻し、そのまま背を向けた。
詠美は、ライエルの背中を見ながら、「拒絶できた!」という勝利感と「優しさを跳ね除けた後悔」に、全身をガクガクと震わせた。
(ち、ちがう!騎士のバカ!私は、貴様の『愛の罠』に、『王の威厳』で対抗しただけなのだ!本当は……本当は、あのコートで『究極の密着相思相愛状態』になりたかったのに!)
ライエルは、焚き火の前に戻り、火の番を再開した。彼は、無言で焚き木の配置を調整し、炎の熱が詠美のいるポチの周辺に『円錐状』に届くように微調整した。
まるで、「完璧な熱効率」を追求するエンジニアのようだった。
詠美は、その『騎士の科学的な気遣い』を感じ取り、再び顔を赤くした。
(くっ……!騎士め!今度は『焚き火の熱力学』を使って『究極の間接的告白』を仕掛けてきた!この男、私の『王の孤独』を、『物理法則』で打ち破ろうとしている!)
詠美は、ライエルの優しさに一人で「物理法則レベルの愛の攻撃」を受けていると誤解し、ポチの首に顔を埋めたまま、『孤独の王』として戦い抜く決意を新たにしたのだった。
読者だけが知っている。
この騎士の行動は、「ロードへの静かな愛情」か、それとも「単なる衛兵としての責任感」か……答えは、詠美の『不治の病』の悪化と共に、魔王城で明かされるだろう。




