第一章③
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翌朝、夜明けと共に二人は再び森の中を進み始めた。
「おい、騎士よ。貴様が目指すのは、この道ではない。東だ。東に向かえ!」
ライエルは立ち止まり、詠美を正面から睨みつけた。
「私は任務を遂行する。東は山脈地帯だ。道などない。ここを北へ進めば、『辺境都市フィルド』に続く細い道がある。それが私の使命だ」
「愚問だな。この道は『偽りの道』。東には、『古の魔道王城』がある!貴様、まさか王の直言に背くつもりか?」
「私は任務を遂行する。それに従えないなら、そこで勝手に待て」
ライエルは冷徹に言い放ち、再び北へ進もうとする。
「あ、ちょっと待て!待てと言っているだろう!」
詠美は慌ててライエルの背中にしがみついた。
「チッ……良いだろう、騎士。貴様が目指す『フィルド』とやらに向かうのは構わぬ。だが、貴様は私を『王の御座』へ導くという真の使命を忘れてはならぬぞ!」
「好きに言え」
ライエルは冷たく突き放したが、詠美が彼の後ろを必死でついてきていることを確認し、再び歩き出した。
しばらく歩くと、森の木々が途切れ、細い石畳の道が見えてきた。
「見ろ、ロード。これが道だ。お前の『直感』とやらは、間違っていたようだ」
ライエルが皮肉を込めて言うと、詠美は顔を赤らめた。
「フン!これは『運命の導き』だ!この道こそが、私を真の故郷に導くための『隠されたルート』なのだ!分かったか、愚かな騎士よ!」
「はいはい」
道は人や馬が通った跡があり、魔物の気配も薄い。詠美は安堵したものの、新たな不満が爆発した。
「な……ッ!騎士!貴様!なぜ昨日、私の『漆黒の戦闘服』を布で包んでくれなかったのだ!」
詠美の制服は、ライエルが持っていた袋の中に、麻の服とは別に、シワだらけで無造作に押し込まれていた。
「なぜそんなことを。ただの服だろう」
「ただの服ではない!これは『王の聖衣』だ!これを着ていなければ、私の威厳が保たれぬ!このまま街に出れば、私の高貴な姿が汚されるではないか!」
「汚れるも何も、お前のその奇妙な戦闘服は、ここで最も目立つ。街に着いたら、その服はもう着るな」
「誰が着るものか!貴様がこの王の聖衣を、アイロンで伸ばして持ってくるがよい!」
「アイロン?何だそれは」
詠美は頭を抱えた。
「アイロンを知らぬと!?まさか、この世界に『文明の利器』がないというのか!Wi-Fiは!?充電器は!?」
素の女子高生としての悲鳴が飛び出し、ライエルはため息をつきながら、詠美を無視して歩き続けた。
「フン……!いいか、騎士!私の真名を気軽に呼ぶな。私は『終焉の王』だ。この街で、私にふさわしい『王城』と、『真の衣』を探すぞ!貴様は黙って従え!」
詠美の尊大な命令に、ライエルは答えず、ただ先を歩き続けた。




