第一章②
森の中は日が傾き、急速に暗さを増していた。
詠美のセーラー服のスカートは木の枝に引っかかり、靴は土まみれになっている。
ライエルは先導しながら、一度も後ろを振り返らない。その態度が、詠美のプライドを強く刺激した。
「おい、騎士よ!このロードに背を向けるとは、無礼千万ではないか!貴様は眷属としての礼儀を知らぬのか?」
ライエルは足を止めず、冷静な声で答えた。
「私は衛兵団のライエル。お前の『眷属』などではない。そして、『ロード』とやら。貴様が私を『騎士』と認めてくれるのは勝手だが、この森は夜になると視界が効かぬ。無駄に大声を出せば、魔物を呼ぶ。黙ってついてこい」
「な……ッ!この聖なる真名をただの名と呼ぶとは!」
詠美はくしゃみをした。
「ハックシュン!」
ライエルは深いため息をつき、腰に下げていた粗末な布の袋を詠美に投げた。
「中に着替えがある。脱いで着ろ。今夜はこの場で野営する」
「な、野営だと!?まさか、この高貴なロードを、土の上で寝かせようというのか!」
「他に寝る場所がない。死ぬよりマシだろう。さっさと着替えろ。魔物の気配を消さねば」
詠美は顔を青ざめながらも、強がる。
「チッ……良いだろう。貴様らの野蛮な風習に合わせてやろう。だが、この姿は『封印解除第一段階』だと心得よ!」
詠美は麻の服に着替え、ライエルが起こした火のそばに座った。ライエルが串に刺した肉を差し出す。
「食え。森の兎だ」
「フン。王たる私が、その野蛮な肉塊を口にするなど……」
ライエルは無言で串を引っ込め、自分の口に運ぼうとする。
その瞬間、詠美の素の女子高生の食欲が、ロードの威厳を打ち破った。
「あ!ちょ、ちょっと待て!それは試練の糧であろう!?すべて貴様が独占するというのか!」
詠美は慌ててライエルの串を掴み、がぶりと食らいついた。
「フン。これは貴様の忠誠心への報いだと心得よ。さあ、二の串を持ってまいれ」
ライエルは呆れたように見ていたが、もう一本の串を詠美に差し出した。
(本当に面倒だ。だが、先ほど魔物に怯えて「スマホの充電」だと叫んでいた少女と、この尊大な少女が同一人物だと考えると……なぜか、放っておけなくなる)
ライエルの心に微かな「保護欲」が芽生え始めた瞬間だった。




