第五章②
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「やーれやれ、せっかくお茶の時間なのに、うるさいわねぇ」
どこからともなく、十歳くらいの金髪ツインテールの少女が現れた。
フリルとリボンがたっぷり施された、豪華なロココ調の純白のドレスに身を包んでいる。
少女は、ライエルに駆け寄ると、手に持っていた大きなクッキーを一口かじり、空いている方の手を、ライエルの傷口に優しく当てた。
「えいっ」
その一言と共に、ライエルの脇腹の傷が、まるで時間が巻き戻るように塞がっていく。
鎧の歪みすら、元通りになった。
「あ……」
詠美は、あまりの出来事に声も出ない。
オーガは、拘束魔術を破ろうと暴れていたが、少女がクッキーをかじった後、オーガを睨みつけた途端、その巨体は急に萎縮し始めた。
「こら。あんまり暴れると、『お仕置き』よ」
少女が淡々と言い放つと、オーガの体から、強大な力の源が急激に流れ出ていくのが、レオンハルトの魔術師としての視覚に捉えられた。
「な、なんだこのデバフ魔術は!?オーガの『生命力と魔力の絶対値』を、根こそぎ削っている!?」
レオンハルトが驚愕する中、少女は満足そうに頷いた。
「よし。もう、『雑魚』ね」
その言葉通り、オーガは瀕死の痩せこけた犬のような姿になり、恐怖に怯えながら逃げ出した。
オークの群れも、その『お仕置き』の光景を見て、一目散に森へ逃げ帰っていった。
戦闘が終わり、平和が戻った宿場町で、ライエルはむっくりと起き上がった。
自分の体が完璧に治癒していることに驚き、そして、自分の目の前で呆然としている詠美を見た。
詠美は、自分が『素の女子高生』のパニック状態で、木の枝の剣も放り投げていたことを思い出し、羞恥心で全身が硬直した。
(くっ……!私としたことが!『不治の病の王』が、『病の進行』を恐れて、素の悲鳴を上げてしまった!なんと無様な!)
恥ずかしさを隠すため、詠美はいつにも増して厨二病を全開にした態度を取った。
「フン!何を驚いている、騎士よ!この『終焉の王』が、『王の治癒魔法』を貴様に施してやったのだ!感謝しろ!」
詠美は地面に落ちていた木の枝の剣を拾い上げ、少女を指さした。
「そこの『新たな眷属』よ!その『可憐な幼女の姿』は、我が『終焉の王城』の『聖なる装飾』にふさわしい!貴様も私に忠誠を誓うか!?」
少女は、クッキーをかじり終えると、実年齢七十歳を思わせる、達観した瞳で詠美をじっと見つめた。
「ふむ。私は『永遠の白薔薇』ミリー。昔は最強の白魔道士と言われていたけど、今はクッキーが食べられればいいわ。……忠誠はともかく、『お茶会』ならつきあってあげる」
詠美は、少女の完璧なロリの姿に、完全に魅了された。
「お、お茶会だと!?このロードの『王の宴』に付き合うだと!?よかろう!『予備の予備の眷属』として、私に従え!」
詠美はミリーの手を掴み、熱意に満ちた目で見つめた。
「ただし!いいか、ミリー!『絶対』にだ!その『究極のロリの姿』から、『実年齢の姿』に戻るなよ!これが王の『絶対命令』だ!」
ミリーは、その失礼な命令に、小さく肩をすくめた。
「やれやれ。君は相変わらず失礼な王様ねぇ」
その様子を見たレオンハルトは、深紅のローブを優雅に翻し、ライエルに囁いた。
「騎士くん、見たまえ。僕の『白薔薇』としてのポジションが、たった10歳にも満たない少女に『予備の予備』に降格したよ。……そして、あの少女が本物の最強だ」
ライエルは、冷静に剣を鞘に納めた。
彼は、詠美の素の優しさを見てしまった直後だったため、いつにも増して面倒な状況になったことを悟っていた。
「……仕方ない。行こう。『最強の予備の予備の眷属』を連れて、次の目的地へ」
こうして、「不治の病の王」、「冷徹で最強の騎士」、「詐欺師の白薔薇」、そして「最強ロリ白魔道士」という、さらに厄介になった一行は、イストリアを後にしたのだった。




