第三章⑤
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数分後、レオンハルトはライエルにロープで縛られ、詠美の待つ薄暗い宿屋の一室へと連行された。
詠美は、レオンハルトの真紅のローブを借り、得意げな顔で鏡を見ていた。
「フン!やはりこの『深紅の聖衣』こそが、私の真の力にふさわしい!遅かったな、騎士。貴様がいない間に、私は『真の眷属』を見つけたぞ!」
詠美はライエルを蔑むように一瞥し、ロープで縛られたレオンハルトを見て、目を丸くした。
「レオンハルト!どうした、このロープは!まさか、『王城への秘密の拘束の儀』か!?」
ライエルは、その「都合の良い解釈」に、全身の力が抜けるのを感じた。
「詠美。この男は詐欺師だ。お前の『終焉の王』という妄想を利用して、借金を返済しようとしていただけだ」
ライエルはレオンハルトの借金の事情を淡々と説明した。
レオンハルトは抵抗の意思を見せず、床に座り込んだまま、詠美に哀願した。
「ああ、許してくれ、可愛いロード。すべて借金が悪いんだ。僕はキミの純粋さに魅せられていたが、どうしても黒鮫に金を返さなければ……」
詠美は目を見開いた。
(嘘……!この『白薔薇』が、金と借金にまみれた『俗物』だと!?)
詠美の理想と現実が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
その時、ライエルは詠美のそばに歩み寄り、静かに言った。
「詠美。お前の『終焉の王』としての設定を、俺は否定しない。だが、お前を利用しようとする奴がいるなら、俺が排除する。それが『騎士』の務めだ」
ライエルは、詠美のボロボロの木の枝の剣を、そっと彼女の手に握らせた。
「行くぞ。この借金の問題、大元を叩く」
その冷徹な優しさに、詠美の胸がズキンと強く鳴った。
(な、なんだ……この胸の高鳴りは……!?なぜだ!?私の『終焉の王』としての絶対的な孤独が、この『灰色で無骨な騎士』の行動で揺らいでいる!?)
詠美は動揺しながらも、『ロード』としての解釈をねじ込んだ。
「フン!そうか!この胸の痛み……これが噂に聞く『騎士の忠誠心から発せられる魔力の反動』か!そして、私の心臓が疼くのは、『不治の病』の兆候に違いない!いいだろう、騎士!この『病』を治すため、貴様と共に『黒鮫』とやらを討伐してやる!」
詠美は木の枝の剣を高らかに掲げた。
ライエルは深いため息をつき、頭を抱えた。
レオンハルトはロープに縛られたまま、呆れた顔で二人のやり取りを見つめていた。
こうして、「不治の病の王」と「忠実だが苦労性の騎士」、そして「詐欺師の白薔薇」を連れて、黒鮫の討伐へと向かうことになったのだった。




