第三章③
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ライエルの無言の圧力に屈し、詠美は文句を言いながらも、なんとかマルツァの街の門をくぐった。
マルツァはフィルドとは違い、石造りの建物が多く、色とりどりの旗が飾られた賑やかな商業都市だった。
「フン。やっと『王の御座』にふさわしい城下町に着いたというわけか、騎士よ!さあ、まずは『王城』を探せ!」
「ここも辺境都市よりは栄えているが、王城はない。宿屋を探すぞ。そして、もう二度と変な地図を買うな」
ライエルが疲れ切った顔で詠美を先導しようとした、その時だった。
「おや?こんな野暮な旅路に、まるで一輪の純粋な花のような可憐な君がいるとは」
唐突に、甘い声が詠美に投げかけられた。
詠美が振り返ると、そこに立っていたのは、光沢のある深紅のローブを纏い、髪に銀の装飾を施した極めてチャラい美青年だった。
彼は詠美の地味なワンピース姿すら見透かすように、キラキラと輝く瞳で微笑んだ。
「キミの周りのこの『荒々しい騎士』とはまるで釣り合わない。キミはもっと『真の王』に愛されるべき存在だ。この僕、『魔術師ギルドの白薔薇』ことレオンハルトが、キミを真の故郷へ導いてあげよう」
レオンハルトは流れるような動作で詠美の手にキスを落とした。
詠美の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「……な、な、な……!『真の王』だと!?貴様、我が真名を知っているのか!?」
(な、なんだこのイケメン!?私の真の力を一瞬で見抜いた!?しかも、手、手にキス……!?私の『終焉の王』としての設定だけでなく、『女子高生の心の壁』まで突破してきている!?)
詠美は、これまで誰にも理解されなかった『ロード』としての設定を、一瞬で肯定された上、少女漫画のようなシチュエーションに完全に心を奪われた。
彼女の恋愛経験値はゼロに等しかった。
レオンハルトは優雅にライエルに目を向けた。
「そこの『灰色で無骨な騎士』。彼女はもうキミの旅には同行しない。さあ、僕はキミにふさわしい『王城』を案内してあげよう。その服では寒かろう、僕のローブを……」
ライエルは即座に警戒を強めた。
「待て。詠美、そいつは怪しい胡散臭い男だ。話に乗るな」
「黙れ、騎士!この方は、私の『真の理解者』だ!貴様のような『経済力のない下僕』とは違う!」
詠美は完全にレオンハルトに夢中になっていた。
ライエルを冷たい目で見下ろす。
「レオンハルト!さあ、『王城』へ!この『騎士』はもう用済みだ!故郷へ帰るがいい!」
「え、詠美!?」
ライエルの制止も聞かず、詠美はレオンハルトに手を引かれ、彼の派手なローブの裾を掴んで人混みの中へと消えていった。




