第一章:終焉の儀式と、孤高のロード
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「……フッ。ついに、この『偽りの世界』からの離脱の時が来たか」
黒崎詠美は、高校の屋上のフェンスに寄りかかり、夕焼け空に向かって厳かに呟いた。
この『終焉の王』こそが、彼女の真の姿だと、心底信じていた。誰にも理解されない孤独など、彼女にとっては孤高なのだ。
「我が名は『終焉の王』。この右腕に封印されし『神々の裁き』を解き放つ。さあ、真の故郷へ……!」
詠美はドラマティックに包帯を振りほどき、両手を広げた。
次の瞬間、太陽が、異常なほど強く瞬いた。
ビリビリとした熱と衝撃に全身を貫かれ、詠美は意識を手放した。
光が収まった時、彼女の目に入ったのは、アスファルトでも、フェンスでもない、鬱蒼とした、異世界の森だった。
詠美は、全身の血の気が引くのを感じた。
「……え、嘘。嘘でしょ?マジで?本当に転生しちゃったの!?ヤバい、どうしよう!」
(私の真の力が証明されたのは嬉しい!嬉しいけど!こんな森の真ん中で一人ぼっち!?トイレとかどうするの!?私、野外で寝たことなんて一度もないんですけどー!)
真実への高揚感は、一瞬で素の女子高生のパニックに塗りつぶされた。詠美は恐怖で顔を真っ青にしながら、必死で『ロード』の威厳を取り戻した。
「フッ……これは、『運命の強制転移』か。よし、いいだろう。この程度の試練、ロードたる私が怯むとでも思ったか!」
パニックを必死で威厳で覆い隠そうとし、黒いガムテープでぐるぐる巻きにした百円ショップのおもちゃの剣を取り出した。
その時、ガサガサと茂みから音がした。現れたのは、肌が緑色で、醜い小鬼――ゴブリン。
「ギギィイイイ!」
「ひっ……!フッ……まさか、真の故郷の歓迎が、この程度の雑兵で済まされるとはな。見くびられたものだ!」
詠美は威勢よく叫んだが、足は震えていた。
「封印解除!終焉を告げる右腕!!そして、暗黒聖剣よ、輝け!」
しかし剣は光らない。
詠美はパニックを起こした。
「うそ……効かない!?なぜだ!?王としての真の力は!?私、この設定のために百均の剣とガムテープ代を犠牲にしたのだぞ!」
真実の完全否定と、迫りくるゴブリンの恐怖に、詠美は完全にパニックを起こし、叫び声を上げながら逃げ出した。
「誰か!助けて!私、スマホの充電あと10パーセントしかないんですー!」
その情けない素の悲鳴が森に響いた瞬間、青い閃光が走り、ゴブリンは一刀両断された。
目の前に立つのは、鎧を纏い、片手剣を構えた冷徹な美青年――ライエル。
(フッ、やはり来たか。我が危機に、眷属が駆けつけるのは当然の摂理!)
詠美は即座にロードの表情に戻り、偉そうに言い放った。
「フッ……遅かったな、我が影の眷属よ」
ライエルは剣先の血を払い、倒れたゴブリンの傍に落ちている黒崎詠美の高校の生徒手帳を拾い上げた。
「……『眷属』?この薄い紙切れか。お前、学園の魔女か何かか?名は?」
「愚問だな。我が名は『終焉の王』。貴様はその程度の下僕ではあるまい」
ライエルは生徒手帳に書かれた『黒崎詠美』という名を見て、深くため息をついた。
「詠美、と聞こえた。出身地は?こんな奇妙な衣装で、森で何を騒いでいた」
「フッ、これは我が故郷の『漆黒の戦闘服』…貴様らには理解できまい!さあ、跪け。そして私を『王の御座』まで案内せよ」
ライエルは一瞬、眉間に深く皺を寄せた。
「(心の中で)何だ、この尊大な態度の少女は。魔物に食われそうになっているくせに、これほど図々しいとは。だが、頭を打った人間を見捨てるわけにもいくまい。」
ライエルは手を差し伸べることもなく、冷たい声で命じた。
「我々は急いでいる。私が見捨てれば、お前は本当に魔物に食われる。……面倒だが、ついてこい。変な名前の少女」
詠美は、全身の力が抜けていった。
(私の真実が、この騎士に「頭を打った」と一蹴された!?この世界、なんて過酷なの……!)
しかし、彼女はへりくだらない。威厳を保ち、命令口調で言い返した。
「チッ……良いだろう。このロードが、貴様の愚かな旅に同行してやる。感謝するがよい、騎士よ!」
そう言い放ちながらも、詠美はライエルの背中に必死でしがみつくように追いかける。




