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第4話:静寂の理由――竜王降臨

 陰陽師たちは白亜紀の森の奥へ進んでいた。霧が漂う中、湿った葉の香りが鼻をかすめる。

「さっきのエドモントサウルス……かなり警戒してなかったか?」

 松永 修の何気ない言葉に、全員の動きがふと止まる。

 思い返せば確かに――出会った生物たちの挙動には異様な慎重さがあった。

「そうね。というか、そもそも生態系全体の動きが鈍い気がする。」

 篠宮 凛が慎重に周囲を観察する。風間 透の瞳が鋭くなり、相沢 さくらは無意識に結界札へと指を伸ばした。

 篠宮 凛の言葉通り――奇妙な違和感がある。

 森には恐竜たちが生息しているはずなのに、大半が息を潜めるかのように静まり返っていた。

「ここの霊……妙に慎重というか、怯えているようにも見える。」

 風間 透が低く言う。

「霊なのに恐れるものがあるってこと?」

 相沢 さくらが不安そうに眉をひそめる。

「この時代の主役は別にいるからな。」

 佐久間 昴が静かに言った。彼らはその言葉の意味を考える暇もなく、別の異変に気付く。

 風がわずかに揺れ――上空で羽音が響いた。

「……何か飛んでる?」

 篠宮 凛が顔を上げる。

 巨大な影が跳躍していた。

「デカッ……!」

 松永 修が目を見開くと、そこには巨大であること以外には見慣れたが姿あった

「石炭紀には酸素濃度が高かったことで昆虫が巨大化したんだ。そして、そのなかには白亜紀後期まで生き残った種がいたんだろうね」

 風間 透が状況の理解を試みる。

 影の正体は、通常とは比べ物にならないほどの大きさのバッタであった。

 翅を広げれば人間の背丈ほどもある、異形の昆虫だった。

「で……これが、その生き残りの……幽霊ってことね。」

 篠宮 凛が慎重に霊符を構える。

 その巨大な昆虫は、静かに彼らを見つめていた――攻撃の意志はない。ただ、彼らを試しているかのようだった。

 不意に、巨大昆虫は跳躍すると、そのまま、翅を広げて飛び去っていった。

「妙に大人しいのばかりだな……。」

 佐久間 昴が静かに構える。

 しかし、その油断が恐怖を招く。

「待って……気配が変わった。」

 篠宮 凛が警戒する。

 一行が足元に目を向けると、落ち葉が不気味に揺れた。

「……何かいる。」

 霧の奥から、カサカサと無数の足音が響き渡る。木々の影の中、黒い光がちらちらと動く。

「まさか……昆虫霊の中でも最悪の……。」

 そこから、巨大なゴキブリ霊が姿を現した。

「よりにもよってコイツらかよ……!」

 松永 修が顔をしかめる。

「白亜紀の時代にはすでにゴキブリがいた。だから、ここに現れても何らおかしいことはない」

 風間 透が呟く。

「それは、そうかもしれないんだけどね……。」

 相沢 さくらが背筋を震わせる。黒光りする甲殻が不気味に輝き、ゴキブリ霊は次第に数を増しながら迫ってきた。

「これは……まずいな。」

 佐久間 昴は霊符を構えた。

 次の瞬間、ゴキブリ霊たちは一斉に陰陽師達に襲い掛かった。


 ゴキブリ霊との戦いは、ある意味で凄惨だった。

 数が多すぎる。四方から襲い掛かる黒い影を、陰陽師たちは必死に払っていた。

「来るよ――!」

 篠宮 凛が霊弾を放つ。

 しかし、ゴキブリ霊は素早く地を這い、次々と襲いかかる。

「くそっ……!」

 松永 修が鋭い蹴りで霊を砕く。

 佐久間 昴が呪符を構えた。

「破邪滅陣――翠刃嵐すいじんらん

 霊符が鮮やかな翠光を放つと同時に無数の木の葉へと姿を変える。風に乗った無数の木の葉が鋭く舞い上がり、刃となってゴキブリ霊を切り刻む。ゴキブリ達は黒い霧となり、空へ消えていった。

 陰陽師たちは息を整えながら、足元の霊気の残骸を見つめる。

「……吸収、するの?」

 ためらう篠宮 凛は少し涙目だった。

「ゴキブリ霊なんて、最悪じゃねぇか。」

 松永 修が顔をしかめる。

「霊を吸収することで力を得てきた……それは陰陽師として当然のこと。でも、これは……。」

 相沢 さくらが言葉を詰まらせた。

「本能的に拒絶したくなるね。」

 風間 透が呟く。

「この霊気、吸収したら何か影響がありそうね……。」

 篠宮 凛が慎重に目を細めた。

「今は考えてる時間はない。吸収するか、捨てるか決めるんだ。」

 佐久間 昴が霊符を構える。

 数秒の沈黙。

 そして――陰陽師たちは、意を決し、その霊気を吸収した。

 それなりの力は得ることは出来たが、それは決して心地の良いものではなかった。しかし、その心地を味わう間もなく、大地が震えた。

 足元の土が不気味に隆起し、深く沈む音が響いた。まるで巨大な何かがゆっくりと姿を現すかのように。

「……まさか。」

 遠くの霧の中、異形の影が立ち上がった。

「……冗談だろ。」

 松永 修が目を見開く。霧の奥で、巨大な輪郭が現れた。

 ――2本の強靭な脚。

 ――巨大な頭部、並ぶ鋭い歯。

 ――圧倒的な威圧感と、不気味な空気。

「ティラノサウルス……!」

 佐久間 昴が低く呟いた。

「白亜紀最強の肉食恐竜。体長12メートル、牙の力は象を砕くほど強い。時速30kmで走ることができ、噛みつきの威力は2万ニュートン以上……静かすぎた理由……皆、こいつにビビってたってわけか。」

 風間 透が分析しながら、霊符を握る。


 この時代の主役が、ついに姿を現した――。


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