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第3話:静寂の世界

 陰陽師たちはフォッサマグナの深部へと足を踏み入れた。

 空気は湿り気を帯び、霧が低く漂う。周囲には現代の森とは異なる植生が広がっていた。

「この光景……まるで別の時代に迷い込んだみたいね。」

 篠宮 凛が周囲を見渡す。

「この木……葉の形が妙に古典的だ。」

 松永 修が近くの枝を触れる。

 風間 透が静かに言った。

「見ろ、広葉樹が少ない。ソテツやイチョウの仲間がやけに多いし、シダが異常に繁殖してる。この植生――どう考えても白亜紀だ。」

 佐久間 昴が考え込む。

「白亜紀の特徴は、裸子植物の優勢と湿潤な環境。そして、恐竜たちが進化の絶頂にあった時代……。」

「まさか、本当にこの場所が白亜紀の世界だっていうの?」

 相沢 さくらが驚いたように尋ねる。

「いや、違う。気づかないか?ここの植物たち、全部、霊体だ」

 風間 透が最初に気づいた。

「つまり、白亜紀の植物の幽霊ってこと?」

 篠宮 凛が続く。植物の霊という存在自体は特段に珍しいわけではない――例えば、木霊コダマと言えば、誰もが知る存在になるだろうし、佐久間 昴のように植物の力を借りて戦う陰陽師達も存在する。

「さっそく、吸収してみるか?」

「大した力にはならないだろう」

 佐久間 昴の提案を風間 透が拒んだ。白亜紀の植物達は、確かに霊である。しかし、例えば、木霊コダマのように意思を持って動いたりするわけでない。霊としての力は――吸収するほどのものではないように思われる。

 松永 修がふと呟いた。

「しかし、この名前……何でのろい・ラシックパークって呼ばれてるんだ?」

 篠宮 凛が肩をすくめる。

「たぶん、誰かがあの大ヒット映画に影響されて勝手にこう呼んでみただけでしょ。元々、噂としては古くからあったみたいだし……白亜紀なのにジュラ紀を名乗るのは、まあよくある混同よ。」

 風間 透が頷く。

「恐竜時代は約1億6000万年続いた。その中で**三畳紀・ジュラ紀・白亜紀**の3つの時代がある。」

 佐久間 昴が補足する。

「三畳紀は恐竜の始まりの時代。まだ小型の恐竜が多く、ワニや哺乳類の祖先も進化していた。ジュラ紀は竜脚類の時代、そして白亜紀になるとティラノサウルスやトリケラトプスが登場する。」

「なるほどな……元々恐竜時代そのものがひとまとめにされがちだから、こういう名称になったわけか。」

 松永 修が納得したように頷く。

 ここは、間違いなく伝説ののろい・ラシックパークであると。


 陰陽師たちは白亜紀の世界に完全に没入していた。

「信じられない……ここ、本当に現代なの?」

 篠宮 凛がシダの群生を掻き分けながら歩く。

「湿地帯の広がり、川が網のように流れている地形……完全に白亜紀の特徴だ。」

 佐久間 昴が静かに呟いた。

「まさか、これほど完璧に霊だけで再現されるとはな」

 風間 透が頷いた。

「こんな場所を見たら、何をしに来たのか忘れそうだな。」

 松永 修が水辺に手を伸ばしながら言う。

 彼らは恐竜の痕跡を探しながらも、この異世界の空気に飲み込まれていく。しかし、一人だけ周囲の雰囲気を異様に感じていた。

「……みんな、ちょっと待って。」

 相沢 さくらの声が緊張を帯びている。

「どうした?」

 風間 透が振り向く。

「静かすぎる。この世界……何かがおかしい。」

 次の瞬間、霧の奥で何かが動いた。

 霧の中から現れたのは、**エドモントサウルス**。

「攻撃してくる様子はないわね……警戒してるみたいだけど」

 篠宮 凛が観察する。

「草食だからだろう……全長約9~13mと巨大だが、カモノハシ型の口は肉じゃなくて、植物を食べるためのものだ」

 風間 透が解説する。

「しかし、こうして静かに様子を見てくるってことは……俺たち、この世界では、異物として見られているんだろうな。」

 佐久間 昴が冷静に分析した。

 さらに草むらの奥から、小さな影が現れる。

「これは……原子哺乳類か?」

 松永 修が驚く。

 現れたのはトリコノドン――白亜紀の原始的な哺乳類の一種。

「恐竜の影に隠れながら生きていた小型哺乳類ね……なかなか貴重な存在よ。」

 篠宮 凛が観察する。

「恐竜が支配する時代だったけど、こうして哺乳類もひっそりと生きていたんだな。」

 佐久間 昴が呟く。

 彼らは慎重に距離を保ちつつ、白亜紀の生物たちの様子を観察し続けた。



 この場所には、不思議な安らぎが漂っていた。

 恐竜たちが平穏に暮らしていた時代――それが今、陰陽師たちの目の前に広がっている。

 しかし、彼らはそれが勘違いであることに気づいていなかった。彼らは、まだ、この世界の本当の姿を知らなかった。


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