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最終話:終焉の静寂

 幻術を掛けられていたのはいつからだろう――。


 篠宮凛は、静寂の中でふとそう考えた。

 恐竜霊との戦い、花の時代の到来、そして、生き残ったのは三人のはずだった。


 しかし――今、彼女の隣にいるのは松永修、ただ一人である。


「いつも失敗ばっかだったくせに……」

 風に揺れる花を見つめながら、胸の奥で静かに呟く。

 これも、幻術だったらよかったのに。

 花々は咲き誇った。

 風がその彩りを揺らしながら、霊気の残響を消し去っていく。

 恐竜霊たちの姿はすでになく、白亜紀の影は完全に霧散した。

 篠宮凛は、そっと花弁を指でなぞる。

「……綺麗ね……。」

 松永修は微かに息をつきながら、空を見上げた。

「時代が終わった……か。」

 そこに――佐久間昴の姿は見当たらない。

 篠宮凛の指がかすかに震えた。

「昴……いないのね。」

 彼女の声はか細く、風に溶けそうだった。

 松永修はしばし沈黙し、そして低く呟く。

「……戦いの結果だ。」

 篠宮凛は唇をかみしめる。

「でも、やっぱり……。」

 その言葉は途中で途切れた。

 松永修はふっと小さく笑い、空を見上げながら言った。

「なら、昴の分まで生きろ。」

 彼の言葉は硬質でありながら、不思議な温かみを帯びていた。

 篠宮凛は静かに目を閉じ、深く息を吐く。

「さくらと、透の分もね」

 お互いが自らに言い聞かせるように頷いた。


 不意に――空気が、次第に変わり始める。


 風が冷たくなっていく。

 先ほどまで、穏やかな風だった。だが、今――鋭く、刺すような寒気が流れ込んできている。

「まさか……。」

 松永修が低く呟く。

 花々は美しく咲き誇っている。しかし、その花弁が、次第に氷の膜に覆われ始める。

「急激に気温が下がってる……この気配は……。」

 篠宮凛が、霊気の流れが変わるの感じ取った。これは、ただの寒冷化ではない。

 新たな時代――氷河期の訪れを告げるものだった。

「まさか……次の脅威は……。」

 松永修が息をのむ。その瞬間、遠くで轟音が響いた。

 大地が凍りつき、吹雪が霊の残滓とともに巻き上がる――。

 そんな混乱の中――。

「にゃあ。」

 篠宮凛が振り向くと、一匹の猫がそこにいた。

 黒く、しなやかで、小柄な猫。霊気を帯びた瞳が、ただ静かにこちらを見つめていた。

「……猫?」

 松永修が眉をひそめる。

「いや、違う。」

 彼は消えたはずの霊気を感じ取る。

「こいつ、普通の猫じゃない……。」

 雪が降り始める。


のろいラシックワールド・アイスボーン」へ続く……かもしれない。


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