いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。
国外追放。
国のお外にほっぽりだすぞ、な刑。
「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」
目の前には美しい顔を怒りに歪めた王太子ヒューバート。金の髪に青い瞳の美形だ。さすが王家。代々美男美女を娶った集大成。
彼がその腕の中に抱きしめている淡い赤髪にオレンジ混じりの赤い瞳の少女もまた美しい。いや、可愛らしい、だろうか正しくは。彼女の血が混じるとどうなるのだろうか。なんせ彼女は男爵家。しかも母は平民で、彼女もまた父親に引き取られるまで平民暮らし。彼女は美しいがその前々はどうであろうか。
そんなことを考えてしまうディアーナもまた美しい少女だ。青みある黒髪に銀灰色の瞳をしているから、月の女神のようだと讃えられ。
彼女はアルテール公爵家の娘。
様々な理由により幼少期から王太子ヒューバートと婚約させられていた。
そう、させられていた。
何度となく公爵家が辞退しても、最後には王が頭を下げてまで頼まれて。
そこまでされたら国に仕える臣下として断れない。
アルテール公爵家は本当に泣く泣く、王太子の婚約者を引き受けた。
――が。
王太子にしてみたら親に勝手に決められた婚約者だと、ご不満である。
彼の父母は、父が城を抜け出している時に出会った。それはもう運命的な出会いだったとか。
そして恋をし、愛を抱いて結ばれた。
この国では有名な劇にもなっている。
出会いは多少脚色されて、さらに運命的にされている。まさかただ、道でぶつかったのが出会いだとは今では誰もが信じまい。
幸い、今は王妃となった少女は、そのもともとの身分は伯爵令嬢で。ぎりぎりだが王家に嫁ぐ資格もあり。
低い身分の平民の成り上がり物語ではなく。父が高位の身分のご令嬢と婚約破棄したとかそうした波乱もないが。
ただ母が、父親の再婚相手の血の繋がらない義母や義姉たちに虐められていたのを救い出した、超絶美談ではある。
……だだ、その頃うっすらと持ち上がっていた近隣諸国の姫たちとの婚約話しは無しになった。
誰が呼んだか舞踏会で飛び入りで現れたその娘とばかり楽しげに踊る時の王太子をみて――その美しい娘をみて――見合い相手の姫たちは、負けたとすごすごとお国に帰ると、物語は締めくくられて。
――近隣諸国の姫たちに喧嘩を売って。
そうした理由で、ディアーナに婚約してほしいと相成ったわけだ。
なんだかんだとばっちりである。
ヒューバートもディアーナも。
ディアーナの祖母は隣国の王妹である。アルテール公爵家に嫁いだのだ。
……今では王家に嫁がなくて良かったとほっとする王女だが、孫にとばっちりは腹立たしい。
この国との政略で婚姻話が出たとき、時の王太子はすでに自国の貴族令嬢と婚姻していて良かった。
そして国の高位の貴族より、年の近いアルテール公爵家子息が選ばれて。
若きアルテール公爵が隣国に留学していて互いに人となりも見知っていたこともあり。そして王家よりもアルテール公爵家の領地が隣国に接していたからだ。
隣国はこの国より流通の行路も良くあり、あれこれと大きい。国力も戦力も、あれこれと。
そうした国とまた仲良くなりたくて。
王太子が親の意や現状の国勢がわかっていたら。
親のやらかしを。
王は自分が王位についた頃にようやく。この国が他国からそれとなーく、ハブられ――仲間外れにされていることに。
あの舞踏会で招待客の姫たちと一度でもきちんと踊って、誠意をみせてお断りの詫びを述べていたら。
自分のやらかしたあんぽんたんなことをしっかりと息子に白状していたら。
しかし彼は、ヒューバートは幼い頃よりずっと身近にある物語が大好きだった。
大好きな母が主人公の物語。
いつか自分も父のように愛するひとをみつけたい――助け出したい。
そう思っていたというのに。
自分には勝手に婚約者をつけられた。
婚約者は国随一の公爵家の娘で。裕福で、幸せで、三人の兄にも護られていて。
自分が手を出さなくてもはじめから。
それなら、自分を必要としているか弱く――そして美しく愛らしい娘を、自分だって選んでも良いだろう。そんな幸せなディアーナなら、婚約破棄しても傷つかないだろう。そうだ自分と同じように、親に勝手に決められたんだし。別れてやる方が喜ぶかも。お互いの為かも。
だから。薄々とそんな気持ちでずっといたから。
彼は学園で出会ったソレイユに恋をした。
曲がり角でぶつかった、まさに運命――自分だけが知る、 父母の真実の出会いのように!
聞けばソレイユは男爵家の娘で、妾の子で……正妻やその姉に虐められていると言う。
若き頃に男爵とソレイユの母は恋仲であったが、金にモノを言わせた正妻にその恋は引き裂かれたとかなんとか。
やがて母が貧しい暮らしで儚くなくなって、ソレイユは父親の家に引き取られたという。
嗚呼、なんと憐れなことか。まるで母のようだ。
嗚呼、まさに運命。自分が助け出すべき愛。
その愛がわからぬのかソレイユをかばう自分に対して、恵まれた婚約者は何かと煩わしいことを。
婚約者でないものに対しての距離だとか。男爵家の正妻や娘がしているのは虐めではなく躾だとか。引き裂いたのではなく、金にこまった男爵家が正妻の家に泣きついて、正妻こそが泣く泣く男爵家に嫁いだ。それなのに男爵はソレイユの母と別れていなかった……など。
なんて酷いことを言うのだ! この婚約者は!
やはり恵まれた立場の人間は心が冷たいのだ。他者を思いやる、弱きに寄り添う心がないのだ。
むしろ誰より恵まれた立場にいる王太子はそう思った。
……思ってしまった。
だからディアーナもソレイユを虐めるのだ。
ソレイユからもディアーナに虐められていると打ち明けられ。
ヒューバートはそんな非情なディアーナを王家に迎えることはできないと。
そしてヒューバートはソレイユから聞いたディアーナの罪を、友人である側近たちと挙げて突きつけた。
そしてその罪にあう罰を告げたのだ。
「お前を国外追放とする!」
「……かしこまりました」
静かに美しく礼をする公爵令嬢が、何の反論もなく涙も流さないことには少しばかり驚き。そしてやはり冷たい女だと彼らは笑い。
国の果て。
砂漠に彼女を追放した。
「……やっぱり国外追放」
砂漠にドレス姿のままぽつんとたたずむ彼女が、小さくつぶやいたことも知らないで。
国外追放。
すなわち国のお外にほっぽりだされる。
自分がいずれそれを受ける悪役令嬢だと思い出したのは、ディアーナが七歳の頃。
「あ、これ何か、こう……小説だったような……あら?」
うっすらとではあるが、自分と同じ名前の女性が国の外に追放される末路を迎えるお話し……であったような、と。記憶の中の女性も表紙絵だったか挿絵だったか、己と同じ青みある黒髪に銀灰色の瞳だった。まるで夜の月のようだとかなんとか、お話しのなかにもそんな紹介があったような。
そうして己の状況を七歳児な視点で確認を。
ディアーナ。
アルテール公爵家に産まれた待望の女児。
待望の、とあるが。
別に政略のための駒として、嫁がせる女児が欲しいと言うわけではなく。
父は叔父たちとの三人男兄弟。祖父は双子の弟と。そのまた前もまた男兄弟ばかり。
そしてディアーナの前も男ばかり三人も産まれ――そりゃあ、女の子欲しくなります。
代々嫁いできた女たちの「娘が生まれたら引き継がせたい」と持ってきた由緒正しい宝石や家財もたまる一方。
公爵家に嫁いでくるならば、相手もそれなりに家格高い相手。国への貢献力高い相手。
祖母などは隣国の王妹である。もともと仲良い兄妹な彼らは今でも何かしら互いに気にかけ。兄嫁の王妃も、嫁ぐ前から祖母の親友とあってそちら経由も。
母は国内だけならず、祖母の生まれ故郷な国にも手広く店舗を広げる大商会を持つ伯爵家の生まれ。
そんな偉い人でも、子の性別ばかりは何ともならず。
よって、何世代目にか産まれた女の子、ディアーナは――そりゃあもう、上にも下にも置かない大事大事な宝物にされていた。
だから。
「王太子の婚約者、いやです」
そのわがままは通ると思ったし、家族も「ディアーナが嫌なら」とお断りをしてくれていたのだけれども。
自分のやらかしたことをようやく察した王に土下座される勢いで頼まれてしまい。
結局、ディアーナは婚約者になってしまった。
他国に縁があるアルテール家の娘しか王太子の婚約者には、と……確かに国のことを考えたら。
まさか王太子、そいつが一番考えてなかったとは思いもよらず。きちんと話しなさいよ王様よ。
「……これが、強制力?」
そうとは知らないから。
あまり詳しく覚えていないながらも、お話しの道を変えるべくディアーナも頑張った。
けれどもヒューバートはディアーナには壁があるし、その側近となる国のそれなりに力のある貴族の子息たちも同じく。
そしてヒューバートはソレイユと出会ってしまった。
強制力には勝てないかー。
ディアーナはそんな予感はしていた。
七歳で婚約をお断りしたときから。
だから、彼女は考えた。
国外追放とされるなら。
そこに居場所を、住処を、安全なのを先にご用意しておいたら良いんじゃあないかしら、と?
国外追放。
「修道院行きならもっと簡単だったのに……」
そう思ってしまった。そこにあらかじめ金を積んで話を通せば済むだけだったから。
他の物語にあるよう、修道院はこの世界にないからそうなるのだろう。
神殿はあるが、そこに住まうのは選ばれた神官たちだけであるし。そんな聖なる場所に罪人を押し付けることはできないと。
宗教によりけりなのねと、そこはうなずいて。
だからこの国の国外追放とは――まず、砂漠に追放と意味する。
そこは今や誰の国でもなく。
近隣諸国も触らず――いや、触る事ができない砂漠地帯。ある種、無国籍地帯。
というのも国の西方にはかつて滅んだ王朝があり。
砂漠化したそこにはその末裔のわずかな人々が、過酷な世界でありながらも……とある。
彼らにしてみたら、自分ちを勝手に流刑地にするな、なのだが。
しかし人間は水がなければ三日で……というように。
運よく彼らに助けられもしなければ。
だが、彼らも貴重な水を罪人に分け与えるかというかと……。
――死に等しい刑だ。
自分たちの手も汚さない。
死体は勝手に砂にかわる。
そんな刑が自分を待っている。
ディアーナが婚約を嫌がり、あれこれ考えるのは仕方なく、そして当たり前だろう。
……そこで。ディアーナはまた、気が付いて、しまった。
「……いや私、普通にただのどこにでもいる高校生でしたけども?」
こういうのはあれだ、前世チートとか、なんかあれこれ知識や技術もったひとがなるものじゃないの!?
――と。
「えぇと、簿記は多少できるけど授業でならった程度だし、習字は段持ってるけどこの世界はそもそも文字違うし……音楽はー……リコーダーあるのかしらこの世界。ピアノはピアニカしかやってない……」
……積んだ。
「なんで私、高校生までの知識しかないの? せめて社会人なら大人の経験的なあれこれ会社勤め社会人スキルは? え、どうして? 小説……あ、図書館で、ノブちゃんにおすすめされたやつ?」
そうして自分が大学受験の日に雪に滑って頭を打って亡くなったのを思い出してしまった。
虚し……いや、哀しい。
先立った不幸に、かつての家族や親戚をも思い出して。
ああ、前世のお正月の集まりで、昔、海外で青年ボランティアとかなんだかで井戸掘ってきたて話していたおじさんのお話し、もっと真面目に聞いておくんだった。だってお正月ですもん、皆めでてぇと酒盛り、酔っ払いなぐだぐだ語りやったんですもん!
砂漠に追放ならめっちゃんこありがたいお話しでしたー!
前世チート、逃したわー……!
……。
……ふと。
それなら……現世のチートな方々に助けてもらえばいいんじゃあないかしら、と。
ピコーンとレトロな電気がつきました。あ、砂漠に明かりも引かなきゃ。
考えた。
祖母は大きな隣国の王女さま。
母の実家は大商会。
そしてそもそもアルテール公爵家である。
父はもちろん兄たちも。叔父さんたちも大叔父さんも、またその他の皆さまも。なかなかの御立場にいらっしゃる。
……すごくない? いやふつーにすごくない?
だから王家から婚約者に頼まれたわけだし。
「なんでそんな私を追放しようとするのかしら?」
それも強制力かしらとディアーナは首を傾げるしかなかったわけで。
――ディアーナは首を傾げながら、待っていた。砂漠の中でぽつんと。
王都から馬車でまる三日。
移送中の騎士たちは申し訳なさそうにしていたけど。まあ、何かと道中は気を使ってくれてはいたから、彼らは許す。国に帰ったら大変だろうし。
そんな彼女にすごい速さで近づくものが。先の騎士たちの馬車など比べるのが失礼なほど。
それはフードを被った少年が操る不思議な形の馬車だった。しかし引くのは馬ではなく――
「ディアーナさま!」
自分を呼ぶ少年にディアーナも手を振ってこたえた。
「トゥールさま!」
少年は見事な手綱さばきでディアーナに馬車寄せした。
しかし引くのは白砂イルカと呼ばれるこの砂漠の生き物である。
馬より早く、この砂漠を泳ぐのだ。
「お迎えにあがりました」
フードをあげトゥールは美しい銀色の髪をなびかせる。ディアーナの無事を喜び細められた瞳は宝石のような緑色。
褐色の肌に輝く銀の髪。
それはかつて滅んだ砂漠の王朝の末裔――。
ディアーナが国外追放されて三年後。
王太子は父親から王位を引き継いでいた。
――本当は押し付けられたのだが。
近隣諸国からこの国の評判が悪いことを、さすがのヒューバートもそろそろ察した。
父が悪い。父のやらかしたせいで、近隣諸国の今の王妃様方や高位貴族の奥方たちより、毛嫌いされて。
それを打開するための自分の婚約だったのなら、それをちゃんと話してくれていたら。
「いや話たのだが、お前……すぐに都合の良い物語を信じちゃうし……」
今更言われても。
「お前が継いだ方が、まだ当たりが優しいかも……」
ところがもっと酷くなり。
そして国力も、落ちた。
まず、アルテール家の離反だ。
娘を国外追放された恨みで。
ヒューバートにしてみたら、罪人を出したことを謝ってくるべきだろうと――三年前は思っていた。だからの断罪をして刑を行った。
しかしディアーナの言ったことは本当だった。
男爵家は、正妻は。
虐めではなく、躾。
断罪後に男爵と正妻は離縁した。正妻にも好きな相手はいて――今はそちらも家庭を作っている。分別ある彼女はそちらに何かしら手出しするでもなく、男爵からの慰謝料で引き取った娘とともに、もはやこの国ではないところに越して行ったとか。
義理の娘が王妃となる国に住みたくなかったのだろう。
実のところ、ディアーナに罪を被せたソレイユは――にやりと嫌な笑みを浮かべていたから、察してあまりある。
ディアーナもその笑みをみていたからこそ、素直に国外追放を受けた。
「あ、もしかしてこのひと……」
最悪なパターンの冤罪。強制力じゃなくてこのひとにやらかされた、なら。
なら、ば。
容赦は――無い。
そうしてディアーナは大人しく刑を受け――そしてアルテール家の離反理由と、計画の起動となったのだ。
ヒューバートは何度も思う。
愛しきソレイユを妻に、王妃にはできた。
だが。
彼らが思っていたほど幸せな日々とはならなかった。
近隣諸国からの扱いが。この国は信用ならぬと、取り引きが止まったのが数多く。
アルテール公爵夫人の実家の商会がこの国からも撤去しているという。
まさかあの大商会が夫人の実家であったとは。その商会持つ伯爵家もちゃっかりとアルテール家に併合しているし。本当にいつの間に、だ。
あの日、父と母が隣国へ挨拶に出かけていなかったらどうしていただろうか。
慌てて帰ってきたのはディアーナを砂漠に追放して一週間は経っていた。
その間に入れ違いでアルテール家は離反し、隣国に併合した。
そもそも、隣国の王女がこの国に嫁いできたのはそうした国の領地の、難しいやりとりの末だったことまで、政略にはあり。
政略ではあったが公爵と仲の良い夫婦だからこその温情。
本当はもう少しはやく隣国に切り取られるはずの領地を、王女というつなぎで温情をもらっていただけだったなんて。
ヒューバートは祖父の代になんとか繋げた紐を切ったことにも、今更に。
――隣国の王女の孫を王妃にできていたら。
本当は王女の子を王家に迎えたかった。父の妻にしたかったと解ったのだが、アルテール家に女が産まれなかったのだから仕方なく。あの舞踏会となり。
王家こそ、ディアーナの誕生を願っていただなんて。
そんなディアーナをヒューバートが砂漠に、国外追放した。
アルテール家が離反するのは当たり前すぎた。
それにより隣国からの交易が難しくなった。
この国の位置が悪い。
北は大国。アルテール領を呑み込んでさらに。
東は山脈。その向こうはほとんど未知の国。東の山脈を迂回するルートを北の国々は持っているらしい。
南は海。小さな島国が転々と。その島国たちも今やどれも北の大国寄りだ。
そして西は砂漠。
砂漠の向こうにはまだ他に国々がある。砂漠を越えて行けたら華やかな……――。
砂漠。
そこに、いつしか国ができたとささやかれるように。
まさか。
そんなホラ話。
あそこは人間が住めない。
だから滅んだのだろう。
そう鼻で笑っていた。かつてディアーナを断罪した仲間たちと。
けれども。
「建国? 立国? 祝い? 祭典!?」
招待状が来た。
フィジーメール王国より。
それは歴史に消えた――砂漠の王国では?
それが復興するという。むしろ新たな国となるという。
後援は北の隣国。
この国以外、島国すら立国を認めると……。
――またハブられたとヒューバートはあとから。
そして招待されたヒューバートは、その見事な国に驚いた。
確かに砂漠を移動に数日の時間はかかるだろう。
しかし迎えの砂を泳ぐ不思議な生き物の動かす車輪ではなくソリのついた馬車(イルカ車とも言い辛いと御者も苦笑していた)は速く。砂地故にか揺れも少なく。
想定していたより快適で。
着いた国もまた。
「……水が」
水路を流れる溢れんばかりの。
それは向かう王城の地下より湧いて、都中に分け隔てなく行き渡っているのだと、案内役に説明された。
「ある方が井戸を掘り、水源を、水をこの国に……そして王家復興を手助けしてくださったのです」
それは十年ほど前。
七歳にして過去を思い出したディアーナは。
まあ、正直話した。
いつか自分が国外追放されると。
そこは一応よく考えて、予知夢的な? そんなのを見ましたと。
この世界、摩訶不思議はあり。
そもそも砂漠を泳ぐ不思議な生き物も以外も、まだまだいたりして。
まさに異世界転生なら予知夢の方が話し通じるんじゃないかしらぁ……と。
それはディアーナの予想や想像以上に。
うちの姫になにすんじゃあ!
まだ何も起こっていないというのに、父も兄も、叔父さんたちも大叔父さんたちも怒髪天に。
母たちは美しい微笑みに上品に青筋をたてていた。
予知夢、この世界では感の良い子供は割と見るらしいと、後に知ったディアーナだった。
グッジョブ自分。
まあまだ起きていないし、ただの悪夢な可能性はあるけれど。
そういうことなら手を打ちましょう。
まず祖母は仲の良い兄に手紙を書いた。
「砂漠、うちが手を出すからね?」
この近隣諸国最強のお国に許可もらい。
旅好きだった大叔父が、かねてから砂漠の民たちにご縁があり。爵位放り投げて伝説の冒険者とか何それなひとだった。おかげで敵意なくと砂漠に受け入れられて。
地質学やそうした方面の研究者だった叔父が土地を調べまくり。砂地の岩棚で鉱物資源まで見つかったのは運が良すぎて怖くなるほど。
もうひとりの叔父は父とアルテール家の独立か隣国併合を考え動き出し。
母のご実家の商会の物流が良い働きを。
もちろん、兄達も。各自良い働きを。
ディアーナも生前聞いた井戸掘りの話をそれとなく、また学者の叔父に話をしたり。あんまり詳しくは話せかなったことにより――覚えていなかったともいう――それはディアーナの思いつきのように捉えられ。
「ディアーナは天才か……!」
褒められたし、同じく井戸掘りに協力してくれていた砂漠の民たちに「もしや、女神の化身」と崇められかけて焦ったり。それは本当は誰かの苦労話だったから。
あら、前世チート、ちょっと出来た? ありがとう、おじさん。お酒気をつけてね。
それから十年ほどして。
砂漠にぽつんとディアーナが立ってから、三年。
ぽかんと、ヒューバートは口を開けていた。
「あ、あれは……」
玉座に座る男。
この国の王だというのは。
「アルテール家の三男じゃないか!?」
付随してきた側近たちもぽかんと。
それはディアーナの兄のひとり。
彼は妹の追放先になるというこの砂漠をどうにかしようと、何度も訪れて。
大叔父や叔父の手伝いを。
上の兄たちはアルテール家の跡取りとその補佐として、国に残り頑張ってくれている。
いやまず水の確保と。
そして、彼はこの国の民たちと一緒に井戸掘りをするうちに。
かつて滅んだ王家の末裔。
その姫と――恋に落ちた。
後にこの砂漠で一大叙事詩となる恋物語で、新たな王国の王と王妃の始まりであった。
北の隣国――この国ともお隣になる――も、王女の孫が新たな国の王となるのは後押しのしがいがあると腕を鳴らし。
他の国々も砂漠の中に現れた都に、その価値に。
次々とよしみを結んだ。
新たな交易ルートでもある。
実は、南の小さな島国の向こうに、また別な大陸があり。
砂漠を通れればかなりのショートカットができるわけで。
砂漠の端に港街も計画中と聞けばなおさらに。
わざわざヒューバートの国を目指さなくても良くなった。
そうして、ヒューバートたちが知らない間に、世界は彼の国をはぶいて進んでいた。
ぽかんとしている彼らは、やがて気がついた。
王の近くに。
まるで月の女神のような美しい女性がいることを。
彼女を護るのは、王妃となるかつての王朝の末裔――その弟と先ほど祭典中に紹介のあった美しくも凛々しい青年である。
彼が三年前にディアーナを迎えにいったことも。誰にもその役目は譲らなかったことも。まあ確かに白砂イルカを操ることにかけて彼ほどの名手はいなかったのだが。
トゥールは今やこの国の若き騎士団長だという。過酷な砂漠の世界で一族を引き連れて生きてきた彼はまた、強く。
白砂イルカを駆り、砂漠の警護を。
その逞しく強くも美しい姿から、後の世に砂漠の旅人たちの守護神とも謳われ。
また三才年下ながらも、ディアーナに恋して懸命に口説いていることはこの国では有名で。
そうして月の女神を自ら手放した国は、やがて北の国にすべて――と、後の世の歌にあり。
そう、後の世には――。
砂の国の月の女神の夫は、砂漠の旅の守護神であるとも謳われ――。
いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら――そこに住まいを作っておこう、でしたとさ。
ディアーナさんが国の王だったり王妃さまだったり…なんてエンディングを思われましたか?(ΦωΦ)フフフ…
ディアーナさん。前世不運。けれども転生に気がついたけど、作品はあまり詳しくなかったのが逆に。不運の揺り返し。なんだかんだ周りが強キャラ。そういうひとたちにきちんと甘えられたのが良かった。真面目な性格だから、もしも婚約破棄されなかったらきちんと王妃にはなるつもりだった。そういう計画だった。
…でも、彼女によって砂漠の民たちは滅亡から救われて。
トゥールくん。姉さん女房に大満足。滅びる運命だった一族を助けてくれたアルテール家の皆さまに大感謝。お嫁さんに出会えたことに大大大感謝。実は、幼少期出会った時点でめちゃんこ強かった。砂漠の巨大獣を狩って生きていたリアルハンター。彼を王様になお話しあったけど、統治は姉の方が向いていた。お姉さんは一族の巫女みたいな位置にもいたので。よってこの国は後々は女統王朝になっていくんじゃないかな。
ヒューバートはシオシオになって帰国。自らやらかしたことにようやく。まぁ、彼の親たちも悪いんだが。行く末はお察し。
ソレイユは同じく転生な感じだったけど…間違えたひと。いろいろと。彼女も幸せになる道だってあったはず。だからフェードアウト。
(シンデレラも何代もやったら大変だと思ったのがこの話)
砂漠は、イメージはモン◯ンとか、ティ◯キンの砂漠を思い浮かべていただけたら…私の貧弱な想像力では精一杯。
国々の位置の把握が難しかったらすみません。今後の反省点。
あと、ほっぽりだすてもしかしたら方言だったかな。響き好きです。
…モ◯ハンやりたぁい…PS5持ってなぁい…。その勢いで、つい…書いた…。