親ガチャハズレて
「じゃ、お前らともここでお別れだ!」
豪太の声しか確認出来ずにいる真一郎。
「ここはどこなんだ? 真っ暗でお前らも俺自身も見えないなんて」
「私等の『あの世界』の役目が終わって元の世界に戻れるんだよ」
「そんな話聞いてないぞ! 大体元の世界に未練持つなって言ってたのは奈穂じゃねえかよ!」
「そうだっけ? じゃあね、バイバ~イ!」
真一郎は奈穂が舌を出していると感じた。
「じゃ、私も行くから」
真一郎は里香の素っ気なさを感じながら、大毅に質問を試みた。
「大毅、お前はどこまでわかってたんだ?」
「星博士は僕に気を許してたから、ガルファー団壊滅の暁には元の世界でのやり直しを約束してくれたんだ」
「やり直し?」
「それぞれの世界でとんでもない過ちを犯してしまってた僕らの魂を、あの世界つまり戦隊ヒーローが実在する世界に転生させてあの身体に憑依させたんだ」
「憑依? 間瀬真一郎や衛藤大毅の身体って事か?」
「あの世界では人工たんぱく質から人体を作り出すとこまでは可能なんだか、生命までは作れなかった」
「つまり、あの身体はパソコンで俺等の魂はOSって訳か?」
「流石は頭脳明晰キャラだけのことはあるな」
「やめろ! しかしどうしてあの世界の人間に変身させなかったたんだ?」
「フェーマエレメントに耐えうる確証がなくて、僕等を転生させたんだ」
「俺等は実験動物かよ!」
「だからこそ普通ではあり得ない過去からのやり直しが可能なんだ」
真一郎は大毅の過去に興味が沸いたが聞くのはやめておいた。
「元の世界の過去に俺だけが戻って辻褄合うのか?」
「正確には微妙にズレた元の世界に戻ることになるんだ」
真一郎は深く考えるのをやめた。
「僕もそろそろ行くよ」
「お前には一番世話になった。幸せつかめよ!」
「君もな! 安原カズマ」
「えっ?!」
真一郎、いや安原カズマは大毅の気配を感じなくなり、意識がブラックホールに吸い込まれるように遠のいていった。
「安原! 起きろ安原!」
大学の食堂で安原カズマは同級生である寺本ケンタロウに頬を叩かれていた。
「何だよ? バイトで疲れてんだ、休み時間ぐらい寝させてくれよ」
カズマはケンタロウを睨みつけながら身体を起こした。
「講義が始まるぞ」
ケンタロウと共にカズマを起こしていた西谷ユウヤ、上村ミツキ、笠井ミユもカズマを心配していた。
「もうそんな時間かよ」
「ホラ! 行くよ」
ミユはカズマの右腕を引っ張って彼を立たせた。
「ねえ? 私ら安原君の世話しなきゃダメ?」
ミツキはユウヤに耳打ちした。
「研究の班分けで一緒になったんだから」
ユウヤはミツキにつぶやいてカズマに近づいた。
「あの、今度親睦深めるために小旅行しないか?」
カズマはユウヤに頭を下げた。
「悪い! 俺、お前らと違って親ガチャハズレててさ。とにかくバイトして少しでも早く奨学金返還したいんだ」
ケンタロウがカズマに詰め寄った。
「何だよ!? その言い方、自分だけが不幸背負ってるみたいな気になんじゃねえよ」
「寺本、それに他の奴らも結構な金持ちの出だろ? 服見りゃ分かるよ。俺は卑屈になるつもりはねえ、ただお前らの経済力とは釣り合わねえことを分かってほしい」
カズマはひと足早く教室に向かおうとするが、
「安原君、ううんカズマ! 小旅行が無理なら尾辻ヶ原公園で花見なら行ける?」
ミユがカズマの前に立った。
「笠井・・・」
「奨学金返還も大事だけど、今を楽しむ事も大事だよ」
ミユはカズマの頭を撫でて教室に向かった。
「色んな人間と関わるのも勉強のひとつだと思うよ」
ミツキもカズマの後頭部を軽く叩いてミユに続いた。
「お前も小旅行に誘おうって言ったのはミツキなんだ」
「西谷・・・」
「さっきは悪かったな。キツい言い方して」
「寺本、俺ももう少し言い方あったと思う」
「安原、いやカズマ。俺等の事、下の名前で呼んでくれると嬉しいかな」
ケンタロウはカズマの背中を軽く叩いて教室に向かった。
「にし、あっユウヤ。バイトの調整してみるよ」
「カズマ、無理しない程度にな」
カズマは自分のペースでユウヤらと付き合っていこうと、彼の肩を叩いた。
「卒業旅行ぐらいは行けるようにするよ」
「もう少し努力しろよ、夏までに海行けるようにとか」
ユウヤの口調から決して無理強いしていない事を痛感するカズマであった。
〈終〉
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
フェーマブルー=間瀬真一郎としての使命を終えて、元の世界(に近い?)に戻ってきた安原カズマ。
今度は身の丈に合った大学生活を送るようです。
前作の「六十手前のドン・キホーテ」からずっと週一のペースで投稿してきましたので、少しお休みをいただく所存です。
今回でエピソード投稿は完了しますが、気ままなペースでキャラクターイラストの挿入する予定です。
では、次回作品でまたお会いしましょう!




