第5話
両の手は刀を握りすぎて皮が剥けて血が流れ、刀身からは血が滴る
服は赤黒く染まり、顔についた血は乾き、ひび割れ
そして視界に広がるのはそこにあった自然を破壊し、そして多くの命を奪った痕――
そんなところに立っているのは俺だけ。
まだ息がある者の呻きが聴こえる。呪いのようなその呻きに正気を保てなくなる
そして、俺は――――
「……夢か」
俺は小さく呟いた。異常な内容の夢ではあったがこの夢は週一ぐらいで見てしまう。
「さすがに忘れられないか……」
あの夢を見た朝は必ず共同墓地に行っていたがこの施設から出ることは許されていない。決めていたことができないことに不満を感じたが気持ちを切り替え、今の仕事の準備をする。
服を着替え、部屋の中で簡単に銃の練習をしてから食堂に向かった。
昨日の施設の紹介ではここにいるのはほとんどが研究員。そして100人程度の戦闘員がいる。他よりも小さな施設にこれだけの人員が配備されている理由としてシェンツァは十分過ぎるものだ。
「せめて椎名少尉がいれば……」
前の配属先でも食事というのは小さな楽しみであった。訓練や会議、仕事の合間にある食事は心安らぐ時間だった。
だがこの状況ではそうもいかなかった。研究員は食事の時間が勿体無いかのように急いで食べ、見知らぬ戦闘員に話しかけるほど友好的じゃない。
結局、一人で食事を済まして俺は司令の部屋へと向かった。
この後はここの戦闘員の責任者への挨拶。それと警護のローテーション、配備先、その他もろもろの話し合いが待っている。
まずは挨拶ということで一応、身だしなみは整える。俺が部屋に着いた時には既に椎名少尉が待っていた。
「おはようございます。椎名少尉」
「おはよう。広野准尉。じゃあ入るわよ」
「はい」
椎名少尉がノックする。すぐに中から返事があり扉を開ける。
部屋にいたのは一人の男。髪は長めで無精髭が生えているがまだ若い。俺達は机の前まで歩いてから敬礼する。
「えっと、椎名少尉に広野順位だな。俺は相良悠、階級は中佐。昨日はすまなかったな、少し忙しくて俺の挨拶が遅れた」
「いえ」
椎名少尉が短く答える。
「なるほど……ここにいる兵とは目が違う。さすがは大戦の英雄達だな」
「相良中佐。申し訳ありませんがその話は……」
「ふむ。どうやら准尉は過去の話は嫌いなタチか。まあいい」
俺の隣にいる椎名少尉も意見こそしなかったが恐らく同じ感情だろう。表情が先ほどよりかすかに曇っている。
英雄という言葉は少なくとも俺には不釣合いだ。俺がしたことはただ自分の命を守るだけに人を殺したにすぎないのだから。
「さて、まずは君達の所属だ。わかっているとは思うが君達の任務はシェンツァの護衛。その際は5人で一組の部隊で警備にあたってもらう」
そう言って机の上に置いてあるノートパソコンを俺達が見えるように動かす。そこには俺達が配属される部隊番号、そして残り3人の名前などが書かれている。
「このデータに関しては渡すことはできない。詳しいことは本人に聞いてくれ。それで、警備時間等についてだが――」
シェンツァの護衛を行う部隊はα部隊、β分隊、γ分隊、δ分隊の4部隊。任務の担当は三交替で行う。その日に警備が割り振られていない分隊の隊員は訓練に参加する。俺達はγ分隊への配属になっていて既に今夜から仕事があるそうだ。
γ分隊は隊員に欠員が出たためその穴を埋める為に俺達が呼ばれたらしい。分隊長も抜けてしまったので階級が一番高い椎名少尉が分隊長を務めることになった。
「不慣れなところもあると思うが後は上手く隊員とやってくれ。それと、これが君達のIDカードだ。サイフ代わりにもなるから失くすなよ」
相良中佐からの挨拶、そして説明が終わり礼をして部屋をでようとしたときに俺は相良中佐に呼び止められ一人部屋に残った。
「……なんでしょうか」
「つれない態度だな。あの大戦の前からの知り合いだろう」
「だからと言って少尉の前で態度を崩すわけにはいかないじゃないですか」
「そうだな……あの時、お前は曹長だったな。大きな出世だな、水樹」
そう言って相良中佐は髪をかく。一年ほど前、俺と相良中佐は同じ部隊だった。もっとも当時、彼は中佐ではなく少佐だったが。
「人を殺して、生き残れば出世……世間では人を殺した者は罪人となり地位は失うのにな」
「軍人なら当然だ。最後に一つだけいいか」
「上官なんですから確認なんかとらなくてもいいじゃないですか」
「いや、軍人として聞いて欲しくないからな――――」
実は二度目の投稿でかなり萎えてるカイトです。
駆け足投稿なのでミスあるかもです。あったらすみません
ここ一週間少し忙しく投稿ができませんでした。
そしてもう一週間ほど間が空くかもしれません・・・
さて、ここまで進みようやく第5話
予定では今月中に8話ぐらいまで書くつもりだったのです……高校生も大変です。
まあ、二度目を書いてる自分としてはさすがに面倒なので今回はこの程度で済ませます。
もともと後書きってこんなものなんだろうですけど。
さて、シェンツァのこのあたりの話もそろそろ展開を変えていきます。おもに水樹の伏線を放り投げたり消化したりです。ヒロインにはしばらく大人しくしてもらうことになるのですがね。
では、ここまで読んでくださった皆様に感謝を。