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金髪の男は再び少年の腕を掴んだ。
前よりは強い力だ。
それでも少年は無言でいる。
「おい、なんとか言えよ」
年上の2人の男たちが金髪の男に近づいてきた。
慌てている様子はないが周囲の目は気になるようだ。
「大西、止めとけよ。
おまえ、こんな所で揉めるなよ。
目立つだろうが」
長髪で眼鏡をかけた男が押し殺した声で大西と呼ぶ金髪の男を注意する。
この言葉から人目につくのを極力避けたいらしい。
そして少年の上から下までを瞬時に観察もしている。
何歳くらいかはよくわからない。
身長は150センチほどだろうから中学1年生といったところか?
顔立ちは女の子と言われたら疑わないだろうなと思う。
全体的な服装や持ち物なんかで少年と判断することになる。
少年は大西に掴まれている手を強引に振り切ってまたスタスタと歩き始めた。
大西は完全にブチ切れた。
暑さだけのせいではなく顔が沸騰しているようだ。
ダッシュで少年を捕まえた。
「こらぁ、くそガキ。
おまえ、なめとんのかぁ?
あぁ?」
大西は少年の耳元で凄んだ。
大声で喚くほどバカではないってことだ。
ある程度の自制心はある。
「大西、ここはマズい。
人目のない所で•••
駅の外に連れ出すか」
おそらく3人の中で最も年上の男が落ちついた声を聞かせる。
他の2人からはアニキと呼ばれているのでリーダー格だ。
それにしても少年の行動は変わっている。
とにかく無視と無言を貫いている。
焦ってるとか怯えてる様子もない。
基本的にはずっとマイペースでいる。
電車などの乗降マナーとしては降りる人優先と暗黙の了解ということにはなっている。
法律で定められているとか鉄道会社で規定されているわけでもない。
あくまでも乗客同士の最低限のマナーになる。
そうなると大西が降りようとする乗客を押し退けてでも乗り込もうとするのはマナー違反。
少年が誰よりも先に降りようとして大西に体当たりして謝ることもなく急ぎ足で立ち去ろうとしたのもどうかと思う。
つまりお互い様ということだ。