こころを読んだの。コンビニで。
「なあなあ、ケンさん」
「なんだい、ナツさん」
「ちょっと浅い話をしても良い?」
「……その導入で聞き入る奴、そうは居ないぞ」
「そう、最近の話なんだけどね」
「聞いちゃいないのね」
「わたし、心読んだの」
「それは浅い話というか、傷が深くなる話じゃないかな。数年後のナツが息してるか心配だよ」
「本当はもっと早くに通るべきなんだろうけどね」
「そうだね、10代で通るやつだね。20代後半はかなり致命的じゃないかな?」
「心読むって結構難易度高めじゃん?」
「そうだな、俺も今、肌身で感じてるよ。ナツの考えてる事サッパリ分からん」
「でも、何だかんだ気になっては居たの」
「そうなんだ。気にしてないと思ってた。まぁ、相手が何考えてるのかとかはすごく気になってるよ。」
「でしょ?そしたら、今日コンビニで見かけてさ」
「コンビニ便利だもんな……。心なら328円とかで売ってたりするよな、いやしないけど。」
「662円だったわ。で、気になったから軽く読んでみたの!」
「……うん、もういいや。……それで心読んじゃった訳ね。どうだった?」
「もうね、胸がキュンキュンしちゃった訳よ。中学生の淡い恋みたいなやつで!」
「初恋の中学生カップルでも居たのか?」
「先生と生徒の関係でさ、もうキュンキュンしちゃったの。読んだのは先生メインだけど。」
「あらら、禁断の恋だった訳ね。」
「他にも熱い男同士の関係があって素敵だなって。」
「禁断二段構えか。」
「一人の女性を慕っている先生とその友達の話だよ?」
「禁断の三角関係が出来たな。」
「結論から言うと先生の方が先手を決めて勝ち上がった訳よ」
「そしてお前は人の心にズカズカ上がって行った訳ね。てか、大丈夫なの法律的に。」
「昔の話だからさ」
「それ、当人達が言うセリフだから。昔の話ならそっとしておいてあげなよ」
「むしろこれがメインストーリーだったよ」
「他人に心読まれた挙句、勝手にメインストーリーに抜擢されるって、たまったもんじゃないね」
「いや本当にドロドロの昼ドラみたいな展開だったよ。結婚の話とかしててさ」
「まぁ、そういうのはありがちだよね。付き合うだの付き合わないだの何年後だの。障壁はいっぱいあるからね。」
「そうそう。結婚したい気持ちと結婚出来ない理由でせめぎ合って口論になったりしてさ」
「思ったより話進んでるな!?」
「実は母親と話を進めてるって」
「禁断のラブに母親が一枚噛んでるとは衝撃だわ」
「本当に色々あって、生徒には話せないような事いっぱいあったんだよね」
「そうだな。生徒に昼ドラの話しても生徒側は困るだろうし。」
「いやそれは結局暴露したよ。」
「倫理観は何処へ!?コンビニで色々落としすぎだろ」
「たぶん罪の重さに耐えられなかったんだと思う」
「その子ドン引きしてたんじゃないかな」
「まぁ泣いてたね」
「だよな。で、その後ナツはどうしたの?」
「それがさ、余りにも面白くて。ガッツリ読もうと思って買っちゃった」
「金銭トレード出来たのかよ。コンビニすげぇ。」
「私もあのコンビニでしか見たことないね」
「そりゃ、禁断に手を染めた先生を全国展開出来ないからな。出来たとしても読み手が1人しかいないよ」
「是非ともケンに共有したくて」
「ごめん。その能力は地球人には備わってないの」
「大丈夫。そんなに難しくないよ。私でも読めるくらいだから」
「ナツ、そろそろ根本的なツッコミ入れて良いか!?心を読んだ部分についてな!」
「――ホント、Kと先生の熱い展開はオススメだからさ」
「夏目漱石の『こころ』かよ」