9話
「やっと外か。これで俺も森とはおさらばだな。三人ともありがとな」
「これくらい当然だって、なんてったって俺たちは命をすくわれてるんだ。もっと何でも言ってくれていいっての。なぁ、二人とも」
「それはそうだけど……いいって言ってくれてるんだから無理に恩返しするのも逆に迷惑な話じゃない? 有難迷惑っていうのよそれ」
「私も経験があります。頼んでもないことを無理やりやられても時には迷惑になってしまうんですぅ」
二人の言う通りだ。俺が特に望んでもいないのに面倒なことを起こさないで欲しい。俺には望むものなんてないんだ。強いて言えば魔王を倒すための戦力なんだが、言っちゃ悪いがこの三人ではどう考えても役不足だ。魔王に挑む道中で確実に死んじまうだろうな。魔王と戦おうってのに、モンスターに苦戦してちゃダメだろ。俺みたいに、モンスターなんてのは一瞬で倒さないとな。
しかし、森の外に出たのはいいんだが、町が見えない。
ということは、ここから町までそれなりに距離があるってことだ。こんなことは考えなくてもわかるんだが、とても面倒だ。てっきり、森さえ出てしまえばそう距離はないと思っていたのにこの仕打ちを受けると流石に俺の心もきついってもんだ。きついとか考えなくすればいいのか。そうだな、俺は何も考えないんだ。つらいことも何もないだろ。ただ町を目指すだけ、それだけのロボットになろう。
「あと、30分くらいだな。思ったよりも時間かかっちゃってすいません。これも俺が森で迷ったばっかりに……」
「気にするな。俺もそれを攻めるほど鬼じゃないんだよ。まぁ、もっと盛大に迷ってとんでもないことになってれば話は別だけどな」
「ひぇっ、ポポが正しい道を教えてくれなかったら今頃俺は……もちろん、軽い冗談ですよね?」
「本気だ。お前の性根を正すために顔面にビンタをくらわすことになっていたところだ。命拾いしたな」
俺の軽口に本気でビビっている男が相当に滑稽だ。見ていてすごく楽しい。からかいがいがあるってもんだな。こういうリアクションしてくれる奴って言うのはパーティーに一人は必要な人材かもしれないな。これで、強かったらほんの少しだけ俺のパーティーに入れるか考えてやったってのに。弱いってのは残念なことだな。
「ゴブリンを数匹まとめて吹き飛ばしてしまうほどの腕から繰り出されるビンタ……想像するだけで背筋が凍るって。それは人に向けちゃいけない力のレベルだよ」
「そうか? パンチとは違ってビンタだぞ? 威力は劣るんじゃないか」
「そういう問題じゃないって。俺たちみたいな一般人からしたらそれは大した違いにならないってこと。ビンタでも確実に死ぬな」
大げさな野郎だ。俺のビンタで死ねるんだからありがとうございますだろうが。
俺は魔王を倒す男なんだぞ。その男のビンタで死ぬことができればあの世で自慢できるってもんだ。身を持って体験しているって言うのは相当でかいってことがわからないのか? ひとまず、一度ビンタをくらわしてみておくか。
「やめてあげて。ゴゴ、こう見えて耐久のステータスは相当低いの。ゴブリンの攻撃ですら、致命傷になるほどの紙耐久よ。ビンタなんて喰らったら誇張抜きで死ぬわ」
「流石に死なれちゃ俺も困るからな。ここはやめておいてやろう」
「ありがとうございます……いや、これはありがとうございますってのはおかしいか? 今俺は殺されかけてたんだよな? それだったら、俺ももっと怒ってもいいのか? でも、命を助けてもらっておいてここで怒るのも違うか」
こいつの中で何か葛藤が起きているようだが、俺にはちっとも関係ない。流石にビンタして殺してしまっても困るからな。じいさんから、力を悪用したらとんでもないことになるとかなんとか言われてたような気がするだよな。ちょっと話を適当に聞いてたのと何も考えてなかったので記憶がかなりあいまいだ。
そもそも、俺が長時間何かを覚えておくなんてのが無理な話なんだ。何も考えてないやつが、何か覚えたりできるもんかよ。
「そう言えば、まだ名前を聞いてなかった。俺の名前はゴゴです。よろしくお願いします」
自己紹介ってことか。俺の名前はどうしようかな。考えなくても思い浮かんだものにしようか。
「タロウだ。ただのタロウ。これからはそう呼んでくれ」
「タロウさん。なんていい名前なんだ。俺もこれからはゴゴタロウって改名しようかな。なぁ、いいと思わないか?」
「何をスッとぼけたこと言ってるのよ。タロウさん、私はぺぺ。一応、このパーティーでは、ゴゴと一緒に前衛をしているわ」
「私はポポです。支援系の魔法で後衛として二人のサポートをしていますぅ」
「ああ、町までよろしく頼むよ。そのあとは特にこれをしてほしいってのはないから、町さえついてしまえばもう大丈夫だからな」
今の今まで俺は名前すら名乗っていなかったのか。タロウなんて適当な名前を言っちまったが、もはやこのタロウをこの世界での俺の何しようじゃないか。三文字で言いやすいし、覚えやすいだろう。これ以上ないいい名前なんじゃないか。
「もう少しかかるんで、俺に強さのコツを少しだけでも教えてくださいよ」
「それは何も考えないことだってずっと言ってるじゃないか。まずは、そのアドバイスを実践してから話してくれ」
ゴゴも話の通じないやつだなぁ。