6話
「本当にありがとうございます!! 俺、今の一瞬だけであんたのファンになっちまったよ。どうしたらそんなに強くなれるんだ? 秘訣があれば教えてくれよ」
「何も考えないことだ。これさえ貫いていれば俺と同じ領域に到達できるだろうな」
「え? 何も考えないことが強さにつながるのか? いやいや、もったいぶらないで本当のことを教えてくれよ。俺は確かにまだ弱いかもしれないけど、このまま終わるつもりはないんだ。絶対に強くなってSランク冒険者になるんだ」
Sランク冒険者とは何だろうか? それに、俺は質問はしないでくれって言ったような気がするんだが。こいつは人の話を聞いていないのか?
何も考えないことを馬鹿にしているようじゃこいつもそこが知れるというもんだ。少しくらいは見どころがあれば、俺の強さの真髄に気が付いたかもしれないってのにな。残念だよ、少年。
「俺は嘘も冗談も言っているつもりはないぞ。余計なことを考えない、むしろ何も考えないことが一番大事なんだ」
「俺が弱いから適当にはぐらかしてるわけじゃないって言うのかよ。それじゃあ、俺が今まで一生懸命考えて修行してきたことはすべて無駄だったのか? だから、俺はいつまでもEランク冒険者だったのか?」
「その通りだ。強さに考えるということほど無駄なことはない。俺を見てみろ、その通り実践してこの強さを手に入れたんだ。何よりの証拠が目の前に存在しているじゃないか。どこに疑うという選択肢があるって言うんだ」
「いや、おかしいでしょ。そんな簡単に強くなれるんだったら、私たちでもSランク冒険者になってるわ。ゴゴもあんまり真に受けないの。確かにこの人は強かったけど、同じやり方で強くなれるとは限らないでしょ? あなたにはあなたなりの道があるのよ。地道に頑張っていきましょう」
この女俺の考えを真向から否定しやがったぞ。まあ、どうでもいいか。
それよりも、俺はこの三人組に町へと案内してもらわないといけないんだ。それだけは、この場で話をつけておきたい。いつまでも当てもなくさまようのは何も考えないとは違うからな。無駄なことはしっかり省いて行かないとな。
「俺から一つ頼みがあるんだがいいか?」
「はい。命の恩人の頼みだったら何でも聞くよ。俺にできることだったらなんでも言ってください」
「それじゃあ、遠慮なく」
「ちょっとゴゴ!! なんで適当に請け負ってるの? とんでもないお願いされたらどうするつもりなのよ」
俺が本当に些細なお願いをしようってだけなのに、また邪魔をしやがって。この女は何か? 俺のことを変態とでも思ってるのか?
「安心しろ。俺がただ、この近くの町へ案内してほしいってだけだ。それ以外は何も頼む気はない」
「そんなことでいいのかよ。他にももっといろいろ言ってくれよ。命を助けられた恩を返すにはそれくらいじゃ全然足りねぇよ」
「だから、それでいいって言ってくれてるんだからここはお言葉に甘えておきなさいよ。私たちはお金ももってないし、実力があるわけでもないんだからできることなんてほとんどないでしょ」
「ペペちゃんの言う通りです。このお方はきっと真に心の綺麗なお方なんですよ。私たちを助けてくれたのもただ見過ごせなかっただけだからです。見返りなんて求めてのことじゃありませんよ」
いや、見返りとして町に案内してもらうつもりだったんだよ。
そこまで、俺の人間性を褒められても流石に大げさすぎる。俺だって、そのくらいの打算は持っている。
しかし、この三人組はやけに騒がしいな。まずは、この男だが、ゴゴとか言ったかな。俺をリスペクトしてしまう気持ちはわからなくもないが、それにしてもうるさすぎる。俺が何も考えない心を手に入れていなかったら既に数発殴っているところだ。
それに、この女も俺の邪魔をしてくる。唯一、おとなしいそうな女の子だけは俺のことを褒めてくれているから、この子だけはちゃんと守ってあげよう。次にモンスターに襲われても安心してくれ。
「まあなんだ。俺は町に案内してくれればそれで構わない。正直、この森に入ってから迷ってるんだ」
「それは大変だ。この森は道から外れちまうと途端に迷うからな。俺たちも地図を持ってなかったら迷っちまうくらいだ」
「その強さがあって、森で迷ったりするものなの? 案外、大したことないのね」
この女俺を舐めすぎだろ。つい今しがた、俺に命を救われたばかりの人間が取る態度じゃないだろ。どういう教育を受けてきたらこんなにひん曲がった性格になるんだよ。もっと、俺に感謝して当然だろ。
とりあえず、俺のことを案内してくれる流れにはなりそうだから、それだけは安心してよさそうだな。ここで、断るような奴はいたら衝撃だけどな。
「ぺぺ!! お前、命の恩人に何て態度なんだよ。俺たちは命を救ってもらったんだぞ。あのままゴブリンと戦ってたら全滅してたことくらいわかってるよな? あんまりだぞ」
「ごめんなさい。私が悪かったわ。でも、まだ気が動転したままなのよ。気丈にふるまってないと今にも崩れ落ちそうなくらい怖かったのよ」
「別にいいさ。俺は気にしてない」
なんか怒るに怒れないな。そりゃ死にそうな目にあったんだ、怖かったに決まってる。