4話
「おっと、ここが異世界か。あんまり感動的なものはないな。なんていうか、特にこれといって感情が浮かんでこない。もしかして、これも何も考えないことの恩恵なのか?」
俺は次に目を開けると、一人森の中で寝転がっていた。
もちろん、最初は驚いたりもしたかったのだが、ここがただの森ということもあり、異世界に来たという実感が恐ろしいほどにわいてこない。これでは、今までのはドッキリでじいさんが俺を元の世界へ戻してくれたんじゃないかって思うくらいだ。
「とりあえず、適当に歩こう。そのうち、森を出て町へ着くだろうしな。今の俺は何も考えていない。ということは最強だということだ。何が出てこようとへっちゃらだ」
これで本当に元の世界の何の変哲もない森だったらそれはそれで面白い気もしてきたな。俺は赤信号を無視して車に轢かれた夢を見てたってことになるのか? しかも、その後に異世界へ転生させるだとかいううさんくさいじいさんが出てきていろんな説明を受けたりもしたよな。
モンスターの一匹でも出てきてくれりゃあ、俺もここが異世界だって確信できるんだけど、どうやら近くにそれらしい生物はいなさそうだ。気配がまったくしない。俺も不思議なことに周囲に何の気配もないことがわかる。これも、じいさんが言っていたチート能力とやらの恩恵だろう。よくわからないが、きっとそうだ。ほかに心当たりもないし、考えるつもりもない。
これがあれば何かが近づいたときにこちらからアクションを取ることができるのは便利だな。
いや、何をするかとかはよくわからないけど、とりあえず様子をうかがったりできるもんな。モンスターだったらそのままやり過ごせるし、人間だったら話しかけてみたりもできるよな。
「それにしても、この森どこからどう見ても近所の森と変わりないよな。木だって異世界っぽさがないし、この木でもいきなり顔が出てきて動きだしたりすれば雰囲気はあるんだけどなぁ」
呑気に適当なことを言いながら、歩いているが一向に気配を探知することはない。
俺もこのまま一生森で過ごすわけには行かないので、少し歩くスピードを上げた。これで俺の歩くスピードは倍だ。つまり、倍進むはず。
すると、俺の気配探知に複数の反応が引っかかった。
「これは……反応が10を超えてるな。一体なんだ?」
ひとまず、その反応の方へ向かうことにした。
もしかしたら、人間かもしれないもんな。何も考えずに猪突猛進する。俺はこの異世界に転生して初めてダッシュした。
「こりゃはえぇわ。すっげぇ足が早くなってる」
異世界に来たときは特に驚いたりはしなかったが自分自身の足の早さには不覚にも驚いてしまった。それほどまでに圧倒的な脚力だ。これなら、オリンピックに出ても確実に優勝だ。金メダルを持って帰れるぜ。
「くっそぉ!! どうして、ゴブリンがこんなに大勢で襲ってくるんだよ。ペペ、ポポ、二人は俺の後ろでサポートしてくれ!! 俺が何とか道を切り開く!!」
「無茶しちゃだめよ。ゴゴだってついさっきの戦闘で消耗してるんだから。ここは三人で力を合わせるしかないわ」
「やばいですぅ。絶体絶命ですよぉ……」
俺が現場に到着すると、三人組の人間が緑色のモンスターみたいな連中に囲まれていた。
三人はそれぞれ武器を持っており、これは……戦おうとしているのか? でも、言動的には逃げようとしているようにも聞こえるんだよな。
「安心しろ。俺が二人だけは絶対に逃がしてみせる!! ここで、やらなきゃ男じゃねぇだろ!!」
男が鬨の声を上げて、モンスターに切りかかっている。
しかし、男一人に対してモンスターは10を超えている、これでは多勢に無勢だな。よっぽどこいつが強くない限り時間の問題だろう。
「無茶するんじゃないわよ。パワー!! これで少しはマシになるはずよ」
「すまねぇ。ペペ。助かった、これなら一気にいけるぜ!!」
なんだろうか、今の間抜けなのは。いきなりパワーとか叫んでたぞ。
見るからに、男の動きが良くなったし、何かしたのか? というか、これ俺が助けに入ったほうがいいのか?
「グハッ!!」
男がモンスターの攻撃を貰い、よろめいた。
それだけ囲まれてちゃあ、全部の攻撃をさばききることなんてまあ無理だろうな。こうなるのは必然だった。
「ヒール!! ゴゴさん。これで私が使える回復魔法は最後ですぅ。攻撃はもう受けないでください」
「まったくそれこそ無茶だろうが。でもやるしかねぇ。やってやるぜぇ!!」
凄い盛り上がってきているが、俺は一体どうすればいいんだろうか? 見るからにピンチだということはわかるんだが、助けに入ってもいいのかそれとも、こいつらが自力で解決したほうがいいのかわからない。
まずい、俺は何を迷っているんだ。いつもの俺なら何も考えずに突撃してモンスターを倒すくらいやってるだろ。俺に与えられて任務は魔王討伐だ。モンスターもその一環じゃないか。迷う必要なんて最初からなかったんだよ。
「そうと決まったら行くしかないな。ちょっと空気は読めてないかもしれないけど、俺がモンスターを全滅させてやる」
俺は隠れていた茂みから飛び出し、モンスターの群れへと突撃していった。