プロローグ
「今日は良いの見つかるかな」
「危ないよ、兄ちゃん。しっかりつかまらないと」
「おっと、いくら自動運転でもそうだね」
反重力スクーターに乗り、荒野を進む人影あり。
スクーターは一人乗りのバイクの車体の前輪と後輪の部分が、全く別物の平べったい正方形の板に代わった代物である。板が発する反重力の機構が車体を浮かせ、スクーターの尻には推進機のようなものがついており、それが前へ進ませる。
そんなスクーターに二人の少年が乗っている。一人は10歳ぐらいの少年で、金髪に青い目をしている。もう一人は14、15歳ぐらいの長い金髪をポニーテールのようにしている少年だ。こちらも金髪に青い目を持っている。大きい少年の手足には彼の手や足よりも一回り大きい機械手や機械靴が装備されている。何ともゴテゴテとしていて不格好だ。
どちらも似た容姿をしており、兄弟のように見える。二人とも揃いの半袖の白いシャツに、長袖の青いコートを上に羽織っていて、下には黒い長ズボンを履いている。
ちなみにスクーターに備え付きの簡易運転AIが自動運転をしていて、少年達は持ち手の部分を握るだけで良い構造となっている。
「破壊獣動くかな」
「あと1日、2日したら下山してくるだろうな」
空に掲げられる太陽は天高く上がっており、雲は疎らに流れている。
二人は遠くの高山を眺める。山脈に連なる高山地帯を小さい方の少年が睨みつけ、大きい方の少年は小さく溜息をつく。
やがて、スクーターの行き先は茶色の空間を一刀両断するように伸びている白い車道(一本道)から逸れていく。
荒野から逸れていくと、その先には灰色の地帯へ向かっていく。突如として荒野に現れるビル群。それらは乱立するようにビルが並んでいる。今もビルは増え続けていた。急ピッチで建物を建造するロボット達。1mを超えないが浮遊するタイプのロボット。2mほどの二足歩行のタイプ。あるいは腕に重機を付けている3m級や、小さなビルがミニチュアに見えるような20m級のロボットなんかもいる。
それらは作業に夢中で、作り終えた建物には何も興味がないようであった。
少年達はビルの入口までやってくる。ガラスなどなく、あくまでビルの形を整えただけであるかのような模造品を思わせる作りと、無人のビルはとても寂しそうに伽藍としていた。
ビル群の外れ。二十階建てのビルの中に入る。
スクーターの画面には「追尾モード」に切り替えられる。そうするとスクーターは大きい少年について回る。スクーターの車体もコンパクトに少し「細くなる」。車体がぐぐっと短くなり、横幅も減っていく可変式。これでビル内もストレスなく行き来できる。
そうしてから二人はスクーターを伴って、入っていく。
受付のエントランスをくぐり、辺りをキョロキョロと見渡す。オフィスビルの一階のような様相の一階。エレベーターがありそうな空間には何もない。上を見上げてみると、縦にだけ伸びており、エレベーターがまるごとくり抜かれたような有様だ。
いつものことである。二人はそのまま階段へと移動する。二階へ上がってみると、全フロアをぶち抜いて一フロアにしたような空間に出る。両端の壁には何故かスポーツで使う「バスケットゴール」がある。二人は近くの壁にあるQRコードのような四角い図形――その図形の中に、不規則な黒点の配置と、図形の隅に黒い四角――を見つめる。
小さい少年が手首につけている腕時計のようなもの、時計盤の代わりに四角い板の表面には接触画面がある。汎用電子端末腕輪。そのボタンを操作すると、板の前側面から光線が放たれる。赤い光線は記号の上から下までくっくりと「確認走査」していく。
翻訳された言葉が画面に表情される。そこには「体育館」という文字が表示される。
「ハズレだ」
「外れだね」
二人は顔を見合わせる。そう呟くと、二人は次の階へ昇っていく。
☆★
そうして外れの階がいくつも重なる。外れの階というのは生活の役にたつものが無かったり、用途不明の階といった所を指す。
この階は当たりであった。工場のベルトコンベアが稼働している。
ういん、ういん。
稼働しているベルトコンベアは空虚しく動いてるだけで、その上には何も無い。小さい方の少年がベルトコンベアのスタートを見てみる。ここにもQRコードのような四角い図形があるので、それを走査する。
【注意】【製造材料が空になっています】【補充してください】
【ログインしますか】
【管理者IDを入力して下さい】
【あるいは権限者札を提示して下さい】
といった文字が翻訳されていく。権限者札も管理者IDも無いので無視する。
ベルトコンベアのゴールに二人は向かう(途中で様々に加工する為の機械があるのを横目に)。
ベルトコンベアのゴールにはいくつもの金属の塊、合金塊が転がっていた。
輸送ロボットがいないので、それらは無造作に転がり、無秩序に投げ出されている。
「良かった」
「回収しよう」
「食料は無かったけど、博士が喜びそう」
ベルトコンベアの終着駅に着くと、大きい少年の手足についた機械が駆動する。
大きい少年のコートやズボンの下、着ている機械手と機械足に連動する薄い薄膜の外骨格が存在する。それらは機械手と機械靴と連動し、本来持ち上げることのできない合金塊を軽々と持ち上げていく。
小さい少年が縮こまっていたスクーターを再び大きくする。黒い運転席は蓋のようになっていて、そこを開けてみる。そこは荷物を入れれるようになっているが、ここも伸縮自在のようで、小さい少年はスクーターの尻の部分に向かって引っ張ると、空間は縦に広がる。また、小さく縮こまっていたスクーターの左右も再び、同じ大きさに戻していく(帰るときには扉に車体を擦らないように気をつける必要があるが、元の大きさに戻しても大丈夫な出入り口ばかりだったのも大きい)。
大きい少年が広がったスクーターの空間に合金塊を次々と詰め込んでいく。やがてパンパンになる寸前。
「なんだこれ」
「どうしたの兄ちゃん」
兄弟二人は不思議な黒いブロックを見つける。四方10cmほどの小さいもの。
表面には「U.S.A.A G.D104-BAD05E10B203」と書かれている。箱の側面には黄色の点滅がある。
少年達はこれに見覚えがある。
人格格納箱と呼ばれるものだ。この箱には一人の人格かAIが詰め込まれているか、空の場合がある。機械用身体や生体アンドロイド等に箱を組み込むものである。
ちなみに箱の中の状態は、箱側面の点滅色で判別できる。
光ってない場合は空。青色は休眠状態を指している。
緑色は通常動作を示し安全な個体であることを示す色、黄色は危険人物を示す色、赤色は精神崩壊状態を指している。
黄色の点滅。この見つけた黒箱に入ってるのは危険人物だろう。
「やめときなよ、兄ちゃん。……危険だよ、その『箱』」
「でも、この『箱』しか生きてないよ」
「それはそうだけど」
少年二人は視線を下ろす。箱は他にもあるが、それら全ては赤一色で埋め尽くされている。
「試すだけ、試してみようよ。ね?」
「ハァ……兄ちゃんらしいけど。」
そうしてから小さい少年はその黒い箱を手に持つと、スクーターの残りの梱包空間に押し込んでいった。