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第七十一話「本日は道場破り」の巻

ある日の昼下がり、ビキラは持ち金を使い切り、困っていた。


貯金はあった。


だが、公安銀行に預けてあるお金は、捕り物時に破壊にともなう弁償金などに当てるために貯めているものだ。

  手を付けたくなかった。


昨夜来(さくやらい)、雑木林の木の実しか食べておらず、しかも木の実に当たって吐き戻し、ビキラはしたたかに体力を失っていた。


「背に腹はかえられないわ。道場破りをしよう」

ビキラは雑木林を彷徨(さまよ)いながら、チカラなくつぶやいた。

「もとはと言えば、お主の無駄使い、駄菓子好きが原因じゃぞ」

木の実に当たらなかった古書ピミウォは、元気一杯にビキラを叱った。


道場破りをして腕前が認められれば、一宿一飯のもてなしに(とど)まらず、「先生」と呼ばれて長逗留(ながとうりゅう)も可能になる。


しかしそれは、ビキラのようなベテラン賞金稼ぎがする事ではなかった。

「道場破り」とは、いわゆる諸国武者修行者の、技能向上のためのシステムなのだ。

「あっ、言ってるそばから。あそこに見えるのは武術道場じゃない?」


雑木林を抜け、田園の中に立つ大きな屋根と、それを囲む板塀(いたべい)を見つけるビキラ。

明らかに、視界に点在する民家とは違っている建築物だった。


「ははあ。門に看板が掛かっておるな」

  と、田んぼの向こうの建物に目を()らすピミウォ。

「真剣流白刃隠れ道場とな? うむ、武術道場であろう」


「どういう風に真剣なんだろう? 楽しみね」

あぜ道に足を踏み入れ、空腹と胸焼けと腹痛のために前屈(まえかが)みになりながらも、ビキラは歩を早めた。

「加減するのだぞ、ビキラ。普通、賞金稼ぎは道場破りなんぞせんのじゃから」

  再度、ビキラを(いまし)めるピミウォだった。


鳥居のような門をくぐる。

  敷地内には、さしたる植え込みもなく、人影もなかった。


ビキラが大きな玄関の引き戸を開けると、肩の上のピミウォが、

「たのもうーー!」

     と、声を張った。


そして、広い三和土(たたき)に立つビキラ。

上がり(がまち)の向こうには、虎の絵の描かれた金屏風(きんびょうぶ)が目隠しに立ててある。

「あのう、道場破りなんですがーー!」

  ビキラも無理をして声を張り上げた。


乱取り稽古(けいこ)でもしていたのか、どすんばたんと言う騒々しい音が、ビキラのひと声でピタリと止んだ。

「また道場破りだ」

「だから見張りを置けと言ったのに」

「先生を。先生を呼んで来いっ!」

  などの、慌てた声が三和土に聞こえて来る。


「先生とは、用心棒かも知れんな」

「あたしがその用心棒に代わって、チャンコ鍋を頂く!」

ビキラは式台に腰を下ろして、早くも食事に妄想を走らせた。


待つこと(しば)し、

「どーーれ!」

  と言って、

金屏風に手を掛け現れたのは、ローブ姿の少女だった。

  ローブの色は鮮やかなサンバピンク。

髪の毛は真紅。瞳は虹色。

  魔人ビキラの分身たる、猫耳のサヨだ。


「あら、サヨちゃん。こんな所で会うなんて、奇遇ねえ」  ビキラは式台に座ったまま、体をねじって言った。

「また食費稼ぎのアルバイトかのう」

  と、ピミウォ。

「黙れ、道場破り! 真剣流の看板は渡さんぞ!!」

  サヨは用心棒に成り切って宣言した。


「おや、先生のお知り合いですか?」

  ごま塩頭の老人が、サヨの後ろに現れて言った。

ハザードの道着を着ている。

  道場主のオンダカであった。


「なに、以前にお話した、あたしの分家ですよ」

「分家のビキラです」

  説明が面倒なので、分家で通すビキラだった。

「本日は道場破りに参りました」


「なるほど、考える事は同じ、という話ですな」

  ごま塩頭の道場主は、首をひねりながら言った。

「しかし、用心棒は二人も要りません。勝った方を、食客としてもてなしましょう」



かくて、板敷きの広い道場で対峙(たいじ)するサヨとビキラ。


二人の距離は、三間(さんけん)。五メートル四十五センチ。

柔道の試合より一間、つまり一メートル八十センチほど長い。

組み合う訳ではなく、仮初(かりそ)めの物体を飛ばし合うので、その分、距離を空けてあるのだ。


その魔人少女二人を、老若男女の道場生たちが東西に分かれ、壁を背に正座をして見守っている。

ピミウォは、ちゃっかりと道場主オンダカの肩の上に乗っている。


「どちらが勝ちましょうか? 大先生」

  高弟ウルオが、隣のオンダカ老に声を掛けた。

「サヨ先生は強い」

オンダカ老はその目で、教士、練士、師範代のことごとくが倒されるのを見た。

そして自分は戦わず、猫耳のサヨを食客兼用心棒として受け入れたのである。


「しかし、分家と言うからには、あちらのお嬢さんも相当に強いのであろう」

「もちろんです。しかしビキラは今、空腹と食当たりで体力を随分と()がれておりますのでな」

  オンダカの肩の上で、古書ピミウォは冷静に判断した。

「サヨさんが勝ちましょう」


「あっ。そうとうに強い二人が戦ったら、道場が危なくありませんか? 大先生」

  高弟ウルオが小さく叫んだ。

「な、なるほど!」(ひざ)を打つ大先生。

  サヨとの戦いで、壊れた道場を直したばかりである。


大先生は正座を崩し片膝(かたひざ)を立て、

「その勝負、待った!」

  と叫んだ。


無論、二人は待たなかった。


「僕刃ヤバイ矢久保 (ぼく、やいばやばい。やくぼ!)」


ビキラは回文を詠唱し、羽織袴(はおりはかま)の矢久保さんを具現化させた。

「寄らば斬る!」

手に持った真剣を、バットのように、ぶんぶん振る危ない目の男、矢久保。


(ざわ)めき始める場内を他所(よそ)に、今度はサヨが詠唱した。


「超おふだハリケーン!」


(ごう)! と言う空気の(うな)りと共につむじ風が起こり、おふだが続々と出現しては、ビキラの周囲を舞い狂う。


「我が分家よ。あなたの周りを舞っているおふだを、よく見るが良い!」

言われて、宙に舞うおふだを一枚、引ったくって、

「げっ、この絵はマダラベニカマドウマ!」

  と叫んで体を硬直させるビキラ。

マダラベニカマドウマは、ビキラの苦手な相手のひとつだった。

ぷい、とおふだを投げ捨て、急いでショートパンツの臀部(でんぶ)で手を拭く魔人ビキラ。


「アシナシムカデも、クビナガタカアシグモもいるわよ

  と言いつつ、体のあちこちを掻き始める猫耳のサヨ。

それは自分の弱点でもあるので、気持ち悪くなってきたのだ。


「いやああああ!」

  頭を(かか)えて床にうずくまるビキラ。


「なるほど、乙女の弱点ですかな」

  と、オンダカ大先生。

ひらりと流れて来たおふだを一枚拾い上げ、

「燃え果てた思い出の品を返せ!?」

書いてある文字を読み上げて、不思議そうに首をひねった。


「同じ絵、同じ文句が多いようですが」

  と、高弟ウルオ。

「それにしても、弱点が多い事には違いないですね」


「こら。あなたはその剣で、おふだを斬り捨てなさいよ」真横で、自分と同じようにうずくまる凶剣士矢久保さんを叱るビキラ。

「僕はあれらが大の苦手で」

根っ子の部分は術師ビキラと同じ矢久保さんが、声が震わせて応じた。


「ビキラ、しっかりせい。火じゃ、火を使うのじゃ」

  見かねてピミウォが助言した。

「相手は紙の札じゃ。燃やしてしまえっ!」


「なんという事を!」

オンダカ大先生は肩の上のピミウォを(つか)むと、チカラまかせにページを閉じた。

「道場が燃えてしまうでしょうが!」


さいわい、ピミウォの助言は、ビキラの耳には届いていなかった。

ビキラは「毒を持って毒を制す」とばかりに、自分の弱点であるベニマダラカマドウマを具現化させようとしていた。

弱点克服の特訓用に作り、ずーーーっと寝かし続けてきた秘密回文なのだった。


「竈馬の舞う土間か (かまどうまの、まうどまか!)」


詠唱により具現化した昆虫の大群は、得体の知れぬ妖風に乗り、土間と化した道場内を乱舞した。


通常、体長二センチあまりのベニマダラカマドウマが、それぞれ大人の頭部ほどの大きさがあった。

ビキラ、サヨは言うに及ばす、道場生や高弟、大先生までもが逃げ(まど)った。


皆んな、ベニマダラカマドウマが大の苦手だったのだ。



「ああもう、あたしまで用心棒をクビになっちゃったじゃないの」

道場を出て、夕暮れのあぜ道を歩きながらボヤく猫耳のサヨ。

「大先生が腰抜かして寝込んじゃ、仕方ないわね」

餞別(せんべつ)にもらった塩むすびを頬張りながら、魔人ビキラが言った。


「あなたが原因だっつーーの、我が分家よ」

  そう言うサヨも、塩むすびを食べる口は止めなかった。

「さてもメシのタネは難しいのう」

古書ピミウォも、ビキラの肩に立って、米粒をこぼしながら、おにぎりを食べていた。


「まあ、あたしたちの戦いを見て、道場生たちも喜んでくれていたみたいだから、良しとしましょう」

「あれ、歓声じゃなくて、純粋な悲鳴だったと思うけど。わが分家よ」


「少なくとも、『見ていきなさい』と言える代物(しろもの)ではなかったのう」

  例によって、ピミウォが他意なく総括(そうかつ)した。



(聞いてみた飯の種楽しめた見て行き)

きいてみた、めしのたね。たのしめた? みていき!!







次回、回文用術師と古書の物語。「魔人ビキラ」

第七十二話「モモの英断」の巻は、日曜日に投稿予定。

時間未定。

素浪人ププンハン登場! 

それが? と言われても困るが、それなりに楽しめるはず。

その自信は? と問われても困るが、期待せずとも良い、チャンネルはそのままで、待たれよ!


明日、土曜日は、「続・のほほん」を夕方の5時前後に投稿しようかと思っているのだった。

ほなまた明日、続・のほほん、で。

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