表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/117

第六十九話「頑張れ! ナルメラキア」の巻

そのおたずね者は、地味なクラシカルブルーのジャケットを着ていた。

だが、頭部には、七本の(つの)が左右の耳の間に一列に生えていた。おたずね者として、モロ暴露(ばれ)な特徴だった。


それゆえに、ハンチング帽を(かぶ)って七本角を隠していた花泥棒ヌルーリであったが、汗を拭くために帽子を取ったところを、迂闊(うかつ)にも賞金稼ぎのビキラに見られていた。


「あのおたずね者、裏通りに入ったわ。ありがたい」

  ヌルーリを付けていたビキラが、肩の上の古書にささやいた。

「さいわい辺りに人影はなし。人家もまばら。今のうちに後ろからガツンとやっちゃおう」

「待て、ビキラよ。またサヨさんがそこら辺に寝ておるのではないか?」

  辺りを見回し始める古書ピミウォ。

「見つけて起こしておかんと、三度(みたび)おいしいトコロを持っていかれるぞ」


「あっ。それもそうね。うーーん、あの空き地の茂みが怪しい。オドロオオカミなんか、好んで隠れてそう」

ヌルーリを追うのを止め、脇の空き地に入ってゆくビキラとピミウォ。


「うん? あの小娘、吾輩の跡を付けているのだと思ったが、考え過ぎてあったか」

空き地の深い茂みをガサガサしているビキラを見て、おたずね者ヌルーリは反省した。

「ふんふん。昆虫採集少女だな、あれは」

自分の子供時代のガサガサ行為を思い出し、ビキラのガサガサを優しい目で見守りながら歩くヌルーリ。


そのために、裏通りの真ん中に生えている木に()つかってしまった。

  他愛もない、そしてよくある前方不注意であった。

木の上で寝ていたサヨが、その衝撃で地面に落下した。


「んああ?」

  大の字になって目を覚ますサヨ。

そして半身を起こした。

「あんた誰?」

「いえ、誰でもありません」

木に打つかった拍子に脱げた帽子を被り直しながら答えるヌルーリ。

「名もない通行人です。お構いなく」

  関わりを避けようとするヌルーリ。

相手は木の上で寝ているような少女である。

  当然の対応かも知れなかった。


その様子を見つけて、

「あっ、あれを見よ、ビキラ。サヨさんがおたずね者を前に尻もちをついておるぞ」

  と、しおりヒモで指しピミウォが叫んだ。


「大変。何があったんだろう?」

「探す場所を間違えたか。ワシとしたことが」

サヨのピンチと早合点したピミウォは、ページを羽ばたかせて猫耳少女サヨへ飛んだ。

(ピミウォが行っても何の役にも立たない)

  と思い、魔人ビキラは回文を詠唱した。


「胃酸過多の多汗犀 (いさんかたのたかんさい!)」


胃酸過多の体調不良で汗が止まらない泥色のシロサイが具現化し、赤い汗(汗ではないかも知れないが、ビキラの認識では赤い汗なのであった)を撒き散らしながら、おたずね者ヌルーリに突進した。


「うおっ?!」

動物的勘で、背後から迫るサイの(つの)を間一髪で()わすヌルーリとピミウォ。

サヨは眼前に迫ったサイに対して、詠唱は間に合わないと思い、

「うりゃっ!」

  とばかりにシロサイの(あご)を蹴り上げた。


一回転半して後頭部から地面に落ち、その大ダメージで消え去るサイ。


「なにすんのよ!」

内ポケットから祓串(はらえぐし)を抜いて一歩踏み出し、ヌルーリの後ろのビキラに叫ぶサヨ。

「あっ、ごめんごめん、ピミウォを守ろうとしてつい。そいつ、おたずね者だからね、サヨちゃん」

  ビキラの言葉を聞き、

「ぬ!」

  という顔で、目の前のヌルーリを(にら)むサヨ。


しかし妖術を撃つのには近すぎたので、祓串で袈裟懸(けさが)けに斬る猫耳娘。

だが、サヨのその鋭い串先を、ぬらり! と()わすヌルーリ。


「ぬらりくらりのヌルーリ」の異名通りの躱わし上手だった。


「見逃して下さい。吾輩はただの花食い魔人です。それもこれも生きる為。あちこちに花壇なぞ造る自治会が悪いんだ」

「そんな理屈があるか!」

サヨにとって、花壇の花を()でるのは、食べ物集めに追われる日々の楽しみのひとつ、安らぎのひとつだったのだ。


「でやっ!」

  とひと声、

         祓串(はらえぐし)三段突き、

      (つばめ)返し、

大車輪斬りと繰り出すが、

  (ことごと)く躱わされるサヨ。

サヨの技を躱わしながら、自分に近づいて来るヌルーリを見て、

「チャンス!」

  と笑うビキラ。


(あきら)めるなよナルメラキア(あきらめるなよ、なるめらきあ!)」


ビキラの詠唱によって、古代ローマ風のローブに腰ヒモを巻いた男性が具現化した。

「わたしの名は、ナルメラキア。あなたを倒すまであきらめないっ!」

  ナルメラキアと名乗る男は両腕を広げた。

武器は持っていなかった。

  格闘家だ。


「また変なのが出た」

  眉を寄せ、後ろに下がるのを止めるヌルーリ。

「あっ、よく見れば二人の小娘、顔立ちと雰囲気が全く同じではないか! しまった、(はさ)み討ちの罠に(はま)ったのか?!」

「今頃気がついても遅い!」

  成り行きで叫ぶサヨ。


「あたしらが組んで、悪党を逃すなどあり得ないわ。覚悟しろ!」

  思い付いた啖呵(たんか)を切って、自分を鼓舞(こぶ)するビキラ。

「無論、わたしが呼び出されて、悪党を逃した事など一度もないのだっ」

  ビキラゆずりのハッタリを()ますナルメラキア。


ナルメラキアは大きな構えを見せた後、素早くタックルに行った。

が、ぬらりと躱わすヌラリーノ・ヌルーリ。

  見事に逃げられ、地面に突っ伏すナルメラキア。

「唯一苦手な(ウナギ)体質の相手だったとは、不覚!」  負け惜しみもビキラゆずりだった。


ナルメラキアを躱わしたヌルーリの頭部を狙って、回し蹴りを入れるサヨであったが、これもあざやかに避けるぬらりくらりのヌルーリ。

側頭蹴りを躱わされたサヨは、そのまま回転を続け瞬時に後ろ回し蹴りを放った。

  しかしそれすらも躱わしてみせるヌルーリ。


二発目の蹴りも躱わされ、勢い余ってバランスを崩したサヨは、地面に尻もちをついた。

  物理攻撃を躱わすのが、ヌルーリの妖術だったのだ。


「はっはあ!」

前後の魔人少女に気を配りながら、得意げに鼻を(こす)るヌルーリ。

「そんなもんかね、お嬢さん方」


そこに、伏兵ピミウォが、岩をも砕く背表紙の(かど)で、ヌルーリの後頭部に頭突きを見舞った。


「がは!」

ヌルーリは誰に攻撃されたからかも分からず、気を失った。

そこらをひらひらしていた古本は、全く、ヌルーリの眼中になかったのだ。

「三対一だと言うことに気がついていなかったのね、このおたずね者」

  お尻の(ほこり)を払いながら立ち上がる猫耳のサヨ。


「あとで、どんな野草が美味しいのか、この花食い魔人に聞いてみようっと」

  ビキラがつぶやいた。

「あたしらの知らない、隠れ美味草があるに違いないわ」


「あの空き地にも」

と、サヨを探してガサガサしていたしげみを、しおりヒモで指す古書ピミウォ。

「美味しい野草は咲いとったんじゃがのう」


「うん。不覚にも今、胡椒(こしょう)を切らしてるのよね」

  と残念がるビキラ。


「えっと、粗塩(あらじお)ならあたし、持ってるけど」

ローブの内ポケットからアラジオの小瓶(こびん)を取り出すサヨ。

「いや、胡椒でないと、今ひとつ美味(うま)くないのじゃ」

  無念そうにページを()ねるピミウォ。


「そうなのじゃ」

ビキラはピミウォの口真似をして言った。唇を、きゅっと一文字に結んでいる。


サヨはそんなビキラの様子に、

(え? ちょっと違和感あるんだけど)

  と思った。

(ま、いいか。彼女は結局、あたしなんだし)

  思い直すのも早いサヨだった。



(良い違和感可愛いよ)

よいいわかん、かわいいよ!!







次回、第七十話「エードン記念館」の巻、は明後日、日曜日の夜に投稿予定です。

明日は「続・のほほん」を、お昼の12時前後か、夕方の5時前後に投稿予定。

時間がいい加減で申し訳ありません。

ではまた明日、続・のほほん、で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ