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第六十二話「懐かしの歌謡ダンス」の巻

たかが小娘二人組と(あなど)った三本シッポのおたずね者カルコッパ。

  魔人ビキラと猫耳のサヨを相手に戦い始めた。


ビキラの回文物体、

「堅物豚か(かたぶつ、ぶたか?!)」を、

「ぎゃっ!」とか言いながら(ひじ)で受けて消滅させる巨漢カルコッパ。

「いててててて」

  肘を押さえて痛がるが、大ダメージと言う程ではない。

「でかくて丈夫で、鎌倉や奈良の大仏みたいな奴ね、あなた」

  と感心するビキラ。


デカい、と言えば小、中学校時代に学校から見に行った大仏を連想するビキラなのだった。


「かなり堅い奴にイメージして育てたブタさんなのに」

「雑な攻撃は止めろ。オレはあんなヘンテコを相手するために体を(きた)えてきたんじゃねえぞ」

  カルコッパはヒジをさすりながら言った。

カルコッパは妖力を筋肉に傾注する武闘派の魔人だった。


それを証拠に、この肌寒い日に、タンクトップに短パンという()で立ちだ。

  ここは村はずれの街、シーカ。

自転車泥棒のカルコッパは、駐輪場を物色していて、ビキラたちに見つかってしまったのだ。


「焼き豚武器や(やきぶた、ぶきや!!)


ビキラの詠唱で、焼き豚を武器にした丸々と太った、シッポの短い動物、たぶん(ぶた)、が具現化した。

鼻をぶひぶひ鳴らしながら、

「喰うか喰われるか?!」

  と叫び、緊張感を高めている。


「ビキラよ、ブタの回文の在庫処分ならその辺で止めよ」  古書ピミウォが魔人ビキラに注意した。

「そ、そんな訳ないでしょ」

  図星を刺されて狼狽(うろた)えるビキラ。


「その、小太りな動物が振り回している焼きブタは喰ってやっても良いが、三十分程で全て消えてしまうんだろう? 消えた時、急に腹が減るんじゃねえのか?!」

「そ、そうなのよ。一時しのぎにもならないのよ」

食べ物に困った時、仮初(かりそ)めの食べ物を出しては、時々食しているビキラであった。

「しかも、

『湿り飯 (しめりめし!)』とか、

『のし瓦和菓子の (のしがわら、わがしの!)』とか、

『決まる春巻き (きまる! はるまき!!)』とか、

  色々出してみても味がイマイチ……」


「それはあんたの味付け、いや、イメージが下手なんだろ」

「くっ、くそう。やっぱりそうか」

  空を見上げてつぶやくビキラ。

「料理下手が妖術にまで影響するとは」


「分家よ、そろそろ交替してくれない?」

  大人しく待っていた猫耳のサヨが進み出た。

「駄目よ。あなたは料理と手加減が下手なんだから」

「料理はともかく、オレに手加減は無用だぞ」

  と上腕二頭筋を盛り上げて見せるカルコッパ。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

  と猫耳のサヨ。


(はら)え串狂い咲き千本万本!」


サヨのその詠唱で、一万一千本の祓え串が具現化し、カルコッパに襲いかかった。

最初は、

「面白れえ」

  とかほざいていたカルコッパだっだが、四方八方十六方から襲い来る祓え串に対応出来る訳もなく、たちまち()ちのめされて地面に伏し、動かなくなった。


焼き豚を振り回していた動物も、とばっちりを喰って消滅していた。


「えーー?! 口ほどにもない」

  驚くサヨ。

「死んでないでしょうね?」

  と慌てるビキラ。

死体では賞金を減額されるのだ。

     幸い、死んではいなかった。



コブだらけになった頭をさすりながら、大人しく公番に連行されるカルコッパ。

  ビキラとサヨの二人組に逆らうのが怖かったからである。


公番への道中に公園があり、ダンスの(つど)いが開催されていた。


その公園にさしかかり、流れてくる音楽にサヨが、

「あたし、この曲に聞き覚えがあるわ」

  と言った。

それはビキラと分離する時に、もらっていた記憶であった。

独裁政権が倒された後、共和国の黎明期(れいめいき)にヒットしたダンス曲だ。


ビキラと古書ピミウォはごく最近、廃墟の体育館で踊り狂ったばかりであった。


「あのダンスも知ってるわ」

  と公園の広場を見るサヨ。

老老男女が踊っている。


「あなた、踊れる?」

サヨは、祓え串の連打を受けて、ボロ布のようになったタンクトップを着ているカルコッパに声を掛けた。

「この古い歌謡ダンスは、小学校で習ったよ」

  と答えるカルコッパ。

込み上げてくる(なつ)かしさに胸が詰まる思いがする、おたずね者カルコッパだった。


「思えば、随分と道を(はず)したものだ」

  我知(われし)らずつぶやくカルコッパ。


「じゃあ、今のうちに良い思い出を作っとこうよ」

サヨはカルコッパの手を引いて、公園の中に入って行った。


「あら、どうしたのかしら、サヨちゃん」

「踊っていないのに、踊った記憶があるので、確かめたくなったのじゃろう」


ビキラとピミウォは、公園に出ていた屋台でタコ焼きを買い、立っていた自販機(パーピリオン)にもたれて、ダンスを見物した。

タコ焼きは、六個百ポン。

  相場よりは随分と安かった。


いつかの『夏の実の種』入りの珍味タコ焼きと比べても、三分の一の値段だ。

  そして缶ジュースは、例によって自販機の(おご)りだ。

ビキラはゆっくりと味わって食べながら、サヨが踊りに飽きるのを待った。


  歌謡ダンスは、男女が組んで踊るタイプのものだ。

カルコッパは思いのほか純情であったのか、サヨに手を握られ三本シッポを振りながら、しきりと照れていた。




(照れまくる組まれて)

てれまくる。くまれて!






次回「魔人ビキラ」本編、

第六十三話、「サヨの怒り」の巻。

は、金曜日のお昼、12時前後に投稿予定です。

少し古い作品が続いて、最近は懐かしく清書しております。


明日、「続・のほほん」は、朝の7時前後に投稿予定です。

ほなまた明日、のほほん、で。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私もタコ焼きを食べながら、二人のダンスを見ていたいです。 こういうラストも良いですね。
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