第六十一話「ジャッド教団」の巻
「ま、待て。話せば分かる!」
廃墟の体育館に追い詰められた三本ヅノのジャッドは、目の前の追っ手、賞金稼ぎの魔人ビキラに話した。
「今際の言葉がそれか? 見苦しいぞジャッド」
ビキラの前には、ジャッド教団の信者たちが二百人ばかりいた。皆、魔人だった。
そういう宗教団体なのだ。
皇帝教祖を自称する魔人ジャッドと、千里眼の異名を持つ魔道軍師メッソニャは、奥の一段高いステージに立っている。
「魔人の国を創設するなどと、下らぬ甘言で善良な魔人たちを騙しおって。その罪、万死に値すると思え!」
「だ、騙そうとした訳ではない」
教祖ジャッドは、出世の見込めぬ軍事政権復活団に見切りをつけて脱退した中堅大幹部だった。
「人間界で迫害され続ける無辜の魔人のため」
と語り始めるジャッド。
その名目で新宗教を立ち上げ、
(ヨロシクやっていたのに、一体どこで暴露たのか)
とジャッドは思った。
「自由と博愛に満ちた魔人の国を建国するため」
と今また繰り返すが、無論、嘘八百ヨタ九百、詐欺千三百であった。
地味なリーフグリーンの僧衣を考案して、私利私欲を満たすため、地道に活動を拡げているところである。
「余は世のため魔人のため、日夜身を粉にして働いておるのだ」
とりあえず綺麗事を言っておけば、六割方の魔人は騙せる。
そしてジャッドは、その六割方の馬鹿者を従えられればそれで良い、と考えていた。
「粉骨粉砕とは、余のために有る言葉と言えよう。のう、皆の者」
「黙れ!」
一喝してジャッドの妄言を遮ぎるビキラ。
「権力を手に入れ、きれーでアホなネエチャンをはべらせて、面白おかしく暮らそうという魂胆は、底の底までお見通しだ!」
それはジャッド教団に送り込んだスパイからの確かな情報であった。
「なっなっなっ!」
図星を突かれて思わず口ごもる教祖ジャッド。
そのジャッドの狼狽を見て、洗脳が解けはじめる雑兵魔人たち。
「ええい、ヤってしまえ、メッソニャ!」
軍師たる魔導書に下知する皇帝教祖ジャッド。
「お断りします」
魔導書メッソニャは、きっぱりと拒否した。
「ここはひとつ、皇帝教祖様が真の力をお見せになっては?」
自らを魔導書と偽って手品を見せ、あれよあれよという間に軍師に納まったのは、古書ピミウォ、その人であった。
彼の内通があったからこそ、労することなく、四天王を称する魔人を三人、倒せたのである。
残るひとりの四天王は、軍師メッソニャを名乗るピミウォなので、倒す必要がなかった。
「きっ、貴様。このジャッドに意見するか?!」
「いやいや、ジャッド様。ここは天地開闢以来と自慢される例の神通力で、あの小娘を粉砕されるがよろしかろう」
今が裏切り時と見て、放言するピミウォ。
古書ピミウォの目的は、洗脳されている献金係兼雑役係の魔人たちを解放することであった。
「待て待て。仲間で言い争っている場合ではない」
もっともな事を言うジャッドであったが、自分で戦う気はまったくなかった。
『真の力』だの『天地カイビャク』だの、ただのハッタリなことは己れ自身が一番良く知っていたからだ。
(あの小娘は、余よりもはるかに強い邪力士タンガス、邪忍者イガッチ、邪術師テヘラザウを、枯れススキをへし折るように倒している。誰が戦うものか)
命が幾つあっても足りない、と考えていた。
一方、ピミウォは、
(教祖が、献金雑役魔人たちの目の前で倒されたら、洗脳を解くにこれ以上の効果はなかろう)
と、考えていたのだった。
「まずはジャッド様が一太刀浴びせられませい」
「何を言うか。ここは千里眼メッソニャ、お主の眼力の見せどころであろう」
ひとりと一冊が譲り合っているところへ、ビキラが回文で攻撃した。
「戻んない仲ね家内何度も(もどんないなかね、かない。なんども!)」
具現化したパジャマ姿の家内は、一気にステージまで跳んで、
「もう、あなたとは離婚します!」
と宣言し、
「ヘ?!」
という顔のジャッドを殴り倒した。
「もう離婚ったら、離婚しますったら!」
と何度も離婚を叫びながら、馬乗りになって皇帝教祖ジャッドを殴り続けた。
教祖のあまりの脆さに、
「そんな馬鹿な」
「弱すぎる」
「我々も確かめよう」
「あの奥さんが強すぎるのかも」
と雑兵魔人が騒ぎ出し、我れ先にステージに上がると、ジャッドに妖術を射った。
「サバがサバ読む!」
「ブリのブリっ子!」
「カンパチなトンパチ!」
「イワナは言わない!」
「シラスが知らす!」
「キス迫るキス!」
「ニシン死に!」
「閃めくヒラメ!」
「ハタと気がつくハタ!」
数々(かずかず)のズカズカ、な駄洒落妖術で攻撃する雑魔人たち。
「旦那待つ妻、断末魔!」
というジャッド錯乱の駄洒落も、多勢に無勢、ベタな駄洒落らの中に埋もれて行った。
「これでジャッド教団も瓦解したのう」
古書ピミウォがビキラの肩に戻って言った。
その時、体育館の大時計が、お昼の十ニ時を知らせた。
「あら、動いていたのね、あの時計」
十ニ時を知らせるチャイムは長かった。
「懐かしいのう。あのメロディは、独裁政権が倒されたあと、流行ったダンス曲ではないか?」
「あっ、そうよ。ウカれてよく踊ったわ」
「久しぶりにちょっと踊ってみるか、ビキラよ」
古書ピミウォはそう言って宙に舞い、しおりヒモをビキラに差し出した。
「仕方ないわねえ」
ビキラはそう言いながら、差し出されたしおりヒモを握った。
ビキラとピミウォは踊り狂いながら、革命後のイカれた騒動をなつかしく思い出していた。
(瓦解は済んだよダンスは如何)
がかいはすんだよ、だんすは、いかが?!
次回、「魔人ビキラ」本編は、日曜日に投稿したいが、微妙。投稿が無理な場合には、月曜日のお昼にビキラを投稿します。予定です。
明日、土曜日は、「続・のほほん」を朝の7時前後に投稿予定です。
ほなまた。明日、のほほん、で。




