第五十七話「開拓村とスケゾウ」の巻
噂を頼りにおたずね者を探して、ある開拓村に辿り着く魔人ビキラと古書ピミウォ。
そして訳あって、村の井戸掘りを手伝い始める小娘と古書。
そんな所へ、やはりおたずね者を探して、賞金稼ぎが村にやって来た。
「スケゾウなら、あたしたちが先に目を付けたんだからね、帰ってちょうだい」
と、そのオジングレーのコートを着た一本ヅノに言うビキラ。
「なんだと?! オレ様を誰だと思ってやがる、小娘。聞いて驚くな!」
一本ヅノのオレ様が名乗る前に、ビキラは回文を詠唱した。
「口から家畜 (くちから、かちく!)」
勇ましく名乗ろうとした一本ヅノの大口から、牛が、にょっ! と顔を出した。
めりめりと音を立てながら、牛は口から出て来ようとする。
すでに顎を外し、地面に倒れて悶えるオジングレーの賞金稼ぎ。
牛も口から出るに出られず、モーモー呻いていた。
「ビキラよ、その辺にしておいてやれ。それ以上続けると、オレ様の頭を破壊してしまうぞ」
「そうね、賞金稼ぎ同士が殺し合うなんて、本末転倒だもんね」
ビキラはそう言うと、指を鳴らして妖術を解いた。
「それじゃ、引き返してもらおうかしら、オレ様くん」
井戸掘りは何回かの空振りの後、ついに水を湧かせることに成功した。
「飲めるヤツでしょうね、それ」
耕作を手伝い、ヤミヤミヘビのインナーウェアを泥で汚しているビキラ。
「水脈からすれば、間違いありません。皆さん、ありがとうございます」
開拓地のリーダーが頭を下げた。
「じゃあ、スケゾウさんを連れて行きますね」
と、ビキラ。
「スケゾウ殿は、この村の開拓にずっと尽力してくれたのですが、なんとかなりませんか?」
ビキラにスケゾウと呼ばれた髭ボウボウのオヤジは、泥にまみれた作業服を着て、神妙にうなだれている。
ビキラと一緒に、先ほどまで農作業をしていたおたずね者だ。
「全国指名手配のおたずね者ですからね」
と、ビキラ。
「公安署に引き渡します」
「なに、この村でのスケゾウの活動を添えて、嘆願書を提出すれば良いのじゃ」
と、ピミウォ。
「されば、罪が軽減されよう。出所も早くなろう」
そのピミウォの話を聞いたリーダーは、
「もちろん、そうしますとも!」
と意気込んだ。
髭オヤジ、スケゾウは、
(死ぬ前にひとつ、世の中の役に立つことが出来た)
と自己満足に浸っていた。
(ここでの活動で、今まで犯した罪が帳消しになるとは思わないが、ただ逃げ回っているよりは、遥かにマシだったと思う)
と、考えていたのだ。
罪を償って、またここに帰って来れば良いのよね、スケゾウさん」
と、ビキラは安請け合いをした。
「待ってますよ、スケゾウさん。貴方をたっぷり擁護した嘆願書を公安署に出しますので」
リーダーがそう言い、多くの村の人々が、彼の後ろでうなづいた。
「スケゾウさんの帰還を喜んでいない人もいたような感じだったわね」
おたずね者スケゾウを連行しながら、ビキラが言った。
「罪人と分かってしまったからのう」
とピミウォ。
「罪人に開拓を手伝わせていた、だけではなく、どんな尾鰭が付いて、この開拓村のイメージを悪くするか分かりませんからね」
自嘲の笑みを大いに浮かべる犯罪者スケゾウ。
「しかし自分には、ここしか帰る所がありません」
「頑張ってね、スケゾウさん」
他意なく笑顔を浮かべるビキラ。
「も……、もちろんです」
スケゾウはビキラの笑みに騙され、口を一文字に結んだ。
清き水が取り持った、ビキラとスケゾウの縁であった。
「まあ、大丈夫なんじゃないの? あなたの人生のやり直しの、良い弾みになったと思うわ、この開拓村は」
ビキラはまたも、安請け合いをした。
(水は清き良き弾み)
みずはきよき、よきはずみ!!
次回、第五十八話は、日曜日(2月4日)のお昼12時前後に投稿予定。題未定。←大丈夫か、おれ?!
同サイトにて、以下の話が完結しています。
「風骨仙人の旅路」全4話。
「異物狩り」全4話。
回文ショートショート童話「のほほん」全111話。
よかったら、覗いてみて下さい。
ではまた明日、木曜日は、「続・のほほん」
朝の7時前後に投稿予定です。




