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第五十六話「フェイクブレイバーズ」の巻

ビキラは山沿いの街道を歩いていて、山道を降りて来る集団を見た。

立ち止まり、二列縦隊の一団が街道に降りて進むのを待つ魔人ビキラと古書ピミウォ。


一緒に並んで歩くのが嫌だったからである。


その、フードを目深(まぶか)(かぶ)った一団は、個々の色は違っていたが、お(そろ)いの袖長(そでなが)のローブを着ていた。

グッドレッド。サプリメントブルー。ジャスティスグリーン。ホーリーブラック等等、総勢九人の多色集団だった。


集団の殿(しんがり)の、サンバピンクなローブは、皆の進む後を追わずに、ビキラの立つ方向に曲がって来た。

「やあ。あたしの分家、元気そうでなにより」

  フードを脱いで笑顔を見せる猫耳赤髪の少女。

「あっ、サヨちゃん」

  ビキラは驚いて小さく叫んだ。

「どうしたの、そのローブ姿は。前に会った時、神社に就職したって言ってだけど」

「はっはっは。巫女(みこ)はお払い箱になったわよ」

「な、何を仕出かしたのじゃ、サヨさん」

なにせ、ビキラの分身である。古書ピミウォは心配して声を上擦(うわず)らせた。


宮司(ぐうじ)さんの浮気を(あば)いたら、クビに……」

「あらら。正義も権力者の横暴には勝てないのねえ」

  正義あるあるに笑うビキラ。

「ヒトの世の摂理(せつり)じゃのう」

  ピミウォは溜め息をついた。

「宮司さん、経理担当の横領を告発した時は、()めてくれたんだけどね」


「で。その姿はナニゴトなの?」

「いや別に」

  とサンバピンクのローブを撫でるサヨ。

()さ晴らしに無法者を可愛がってたら、勇者団に誘われたのよ。人呼んで、フェイクブレイバーズ!」

「訳すと、(にせ)勇者団かのう」

「えっ?! ニセモノって、自分たちで言っちゃっていいの?」

  と、ビキラ。

「実力が、そのう、まだ不足してるから。正義の味方なんだから、そこは正直に名乗っておこうと」


「あーー」

  ぽん! と手を打つビキラ。

「心は勇者、技量は子供! みたいな?」

「そ、そうかも。そこまでハッキリ言わなくても良いけど。でも、勇者タマゴの皆さんの、正義を愛する心は本物なのよ」

「大丈夫か、サヨさん。金運の壺とか万能の洗剤とか、買わされちゃおらんか?」

「大丈夫よ、ピミウォさん。皆さんそういう商才は無くて、正義依存症みたいな人たちだから」


サヨとビキラたちが、なごやかな四方山話(よもやまばなし)をしていると、フェイク勇者団の進んだ先から怒声が聞こえてきた。


「犯罪だと言っとろうが。ただちに止めんかっ!」

「出始めたモノは止められるかい!」

「こら、こっちに振るな。危ないっ!」

「何事じゃ」

  と、ページを羽ばたかせ、ビキラの肩から飛び立つ古書ピミウォ。


ビキラとサヨも、すぐに後に続いた。


「どうしたんですか、大きな声を出して」

「あっ、サヨさん。立ち小便の現行犯だよ」

ホーリーブラックのローブを着た、一本シッポの青年が言った。

「あらまあ。あなた!」

  サヨは鋭い声を出した。

「立ち小便はこの県では、十万ポン以上の罰金か、もしくは三年以下の懲役刑よ」

「公衆トイレが近所にないんだから、仕方ないだろうが」

  アナタと呼ばれた二本ヅノに一文字眉毛の魔人がボヤいた。


「そんなら茂みに隠れてやんなさいよ。ここ、山麓(さんろく)よ。あっちもこっちも昼なお暗い茂みだらけでしょうが!」

  と、ビキラが口をはさんだ。

「わざと行動でやったんなら、許さないわよ」

サヨがローブの内ポケットから、六角の祓串(はらえぐし)を取り出した。

  垂れた紙の(ふさ)凛凛(りり)しい。


「皆さん、朗報じゃ」

  古書ピミウォがビキラの頭上でホバリングをしながら言った。

「その七三分けのサラリーマン風の魔人は、おたずね者じゃ!」

  ビキラの頭に、すとん! と降りてページを開く。

「立ち小便でラクガキをする、公開落書き魔人のハウクロー!」


「ああっ、そう言えばっ」

ジャスティスグリーンの中年オヤジが、二本シッポをピンと立て、地面にを指して甲高い声を出した。

「見事な美女の横顔だ!」

小便で描かれてはいたが、横顔の輪郭(りんかく)線は神神(こうごう)しさにあふれていた。

「すぐに蒸発して消えるじゃん」

  と、声をそろえるビキラとサヨ。

「その(はかな)さが芸術」

  言いながら、ズボンのチャックを閉めるハウクロー。


「ともかく、公番に突き出しましょう」

  サプリメントブルーのローブを着たおばさんが言った。

「うむ! 捕えれば、賞金がもらえますぞ、皆の衆」

  ピミウォが(けしか)ける。

(賞金で久しぶりに白いご飯が食べられる!)

  勇者団の全員が、そう考えた。

九名の食費の捻出(ねんしゅつ)は、大変だったのだ。


「ホーリーファイヤー!」

両手を突き出し、細い炎を噴出させるホーリーブラックの青年。

ひと息で吹き消す落書き魔人ハウクロー。

「ジャスティスタイフーン!」

という、そよ風も、

「サプリメントプリザード!」

という細雪(ささめゆき)も、ハウクローにダメージを与えられない。


「なんだ、お前らの技は。()めてんのか、吾輩を」

  ハウクローはそう言うと、童謡を詠唱した。

ハウクローは童謡妖術師だったのだ、


「ぬえのぬりえ

 ぬめぬめひかり

 ぬるぬるしてる

 ぬまぬるむはる」


ぬり絵の(ぬえ)が春のような風に乗って具現化した。

  表皮がヌメヌメ光り、ヌルヌルしているのが見て取れた。

勇者団の女性たち、サヨを(はぶ)く四名全員が気味悪がって響動(どよ)めき、逃げ腰になる。


「あなたこそナメてんの。なんだこんなモノ」

サヨが進み出て、鵺をつかむなり、びりびりと破り捨てた。

その直後、

「しまった、手がぬるぬるに」

  と両手を振るわせる猫耳のサヨ。

「ええい、考え無しの小娘が。よくも吾輩の芸術を破りやがったな!」

  再び童謡の詠唱を始めるハウクロー。


「にんじゃなんじゃ

 なんにんしゃ

 だいじゃふんじゃたいへんなん……」


ハウクローの詠唱に(かぶ)せて、サヨの後ろでビキラも回文を詠唱していた。


「神主死ぬんか(かんぬし、しぬんか!?)」


死をも(いと)わぬ神主が具現化し、烏帽子(えぼし)を飛ばして詠唱中の落書き魔人に突進した。

「死なば諸共(もろとも)! 死して後已(のちや)む!」

そう叫ぶ神主の、決死の体当たりを喰らい、街道に倒れ気を失うハウクロー。

  本懐(ほんかい)を遂げて消滅する神主。


「あら、にんじゃ童謡の続きは?」

「気になるわ、気になるわ」

「ねえ誰か知りません?」

  騒ぎ出す勇者団の女性たちをビキラは、

「知らん!!!」

  と、怒気をはらんで叫び、黙らせた。



サヨとフェイクブレイバーズは、公番で賞金を受け取るべく、少額賞金首ハウクローを運んでゆく。

並んで歩きたくないビキラとピミウォは、その一団を見送っている。


「それにしてもサヨちゃん、鵺のぬり絵、雑に破いてたわねえ」

  と、ビキラ。

「ストレスが溜まっておったのじゃろう」

勇者団の実力を()の当たりにして、ピミウォはサヨに同情していた。

「やつあたりの八つ裂きというヤツじゃな、あれは」




(八つ裂き雑や)

やつざき、ざつや!!






次回、「魔人ビキラ」本編は、水曜日(1月31日)のお昼12時前後に投稿予定。

「開拓村とスケゾウ」の巻。たぶん。

スケゾウとは何者?! 

果たして井戸掘りは成功するのかっ?!

えっ? 井戸掘りってナニ? というのはナシで!!


完結済み作品。↓

「風骨仙人の旅路」全4話。

「異物狩り」全4話。

「のほほん」全111話。

よかったら、覗いてみて下さい。



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