第五十五話「本物のププンハン」の巻
「で、今度のププンハンは本物なんでしょうね」
見知らぬ街で、ばったり出会うなり、魔人ビキラは言った。
「『で』ってなんですか? 『で』って?!」
(数日ぶりに会えたと言うのに)
と、ププンハンは少しムクれた。
古書ピミウォが、九尾の妖狐の、
「尻尾が人間に化ける新しい技」
とやらに誑かされた話をすると、素浪人ププンハンは、
「それは災難でしたね。私は三日ほど、シッポさんの散歩に付き合わされましたけど」
と笑った。
「『こうした方が、早く見聞を深められる』とか言ってましたよ、九尾さんは」
「まあ、巣でお昼寝してて、九箇所も一遍に他所へ行けるのなら、そうかも知れないけど」
「サヨさんとテレパシー通信は出来ぬのか?」
と、今さらに言うピミウォ。
「出来ません!」
きっぱりと否定するビキラ。
「サヨさんと言うのは?」
新しい名前を気にする素浪人。
「あたしの分身。まあ、気にしなくていいから」
(うあ。ビキラさんも分身の術、使えるんだ)
と、内心、慄くププンハン。
そこへ現れる荒くれ者ふたり組。
しかし、ただの人間だ。
「おうおう。街ん中でいちゃいちゃと」
「真っ昼間から見せつけてくれるじゃねえか」
さっそくに因縁をつけてくる金目当ての荒くれ者たち。
お揃いのスキャンダルブラックのジャケットが自慢なのか、必要以上に胸を張っている。
「いや、そんなんじゃないよ。気を悪くしたんなら、ごめんよ。ただの立ち話だからお構いなく」
ププンハンは相手を人間と見て、受け流そうとした。
「なんだ、おっさん。オレらが怖いのか?」
「いいから詫び料を置いて行け」
荒くれ者たちは、図に乗って言い立てた。
ププンハンが気にしてビキラを見れば、作り笑いを見せながらも、ひたいに青筋を浮かせていた。
(あっ、マズイ。ビキラさん、怒ってる。巻き添えはイヤだ)
「あの、悪いけど少し離れてくれますか?」
慌てて距離を取ろうとするププンハンだった。
「ああ? なんだとう?」
ププンハンの凶悪色のロングコートと荒んだ顔は見掛け倒しと見て、荒くれ者はすっかり調子に乗った。
「大人しく金を出さねえと、彼女が痛い目を見るぜ、おっさん」
「あたしが何だって?」
ビキラはププンハンの前後に立つ荒くれ者に向けて、回文妖術を射った。
「メガトン咎め (めがとん、とがめ!)」
ビキラの詠唱に応じて、メガトン級の「咎め」が、ププンハンと荒くれ者二人組の真横に降り立った。
「うわっ?!」
「うひゃあ?!」
「ヒイィ!!」ププンハンも荒くれ者に負けずに叫んだ。
「悪い子! 悪い子! 悪い子はお仕置き!」
具現化したトガメは、荒くれ者とププンハンに対して、したたかに仕置きを始めた。
「一人くらいは、巻き添えになると思ったわ」
ビキラには、想定内の出来事であった。
ププンハンは、なまじ丈夫であったため、気を失うことなく荒くれ者の何倍も、仕置きを受け続けた。
その頑丈さは、ビキラを安心させ、感心させた。
そして「ヒイィ」は、ププンハンの「大丈夫宣言」だと認識するビキラであった。
(良い人ひいい)
いいひと、ひいい!!
次回、ビキラ本編、第五十六話
「フェイクブレイバーズ」の巻は、日曜日(1月28日)に投稿予定です。
サヨの再登場は、小吉か大凶か?!
本格的にビキラに絡み始める前触れか?!
その馬鹿馬鹿しさは、本格的に覚悟して待て!!
明日は木曜日は、「続・のほほん」を朝の7時前後に投稿予定です。
ではまた明日、のほほんで。




