第八話「ポイ捨ての恐怖」の巻
見学を無事に終え、万物博物館から出て来たビキラたち。
と、ビキラが前方を指して言った。
「あの一本シッポの奴、今、煙草のポイ捨てをしたわ」
ビキラは猛然とダッシュして、クラッシュブルーのジャケットを着た魔人に迫った。
「こらあ、貴様!」
ビキラの大声に立ち止まり、振り向いた魔人は、すでに次のタバコを咥えていた。
「そのタバコをすぐに消せ。そしてポケットに仕舞えっ。公共施設の敷地内だぞ、ここは!」
と、ポイ捨て魔人に怒るビキラ。
「施設外でも、この辺りは禁煙地区のはずじゃ」
魔人少女の肩の上から、古書ピミウォが付け足した。
「五千ポンの罰金は確実じゃ」
「オレはタバコを吸ってねェと、死んじまうんだよ」
小娘の青臭い正義感と見たガジリは、軽くあしらおうとした。
「魔人化のせいでな。魔人だって生きているんだ。生存権は認めるよな?」
「それはただのニコチン中毒じゃろう。魔人化は関係あるまい」
「博物館の敷地内でタバコを吸っていい理由にはならんぞ」
正義は我にあり! とばかりにピミウォに追随するビキラ。
「金ピカのちゃんちゃんこは着てねェよな。お前ら、岡っ引きじゃねェなら黙ってろ。大きな顔するんじゃねェ!」
「大きいと言えば、最近、五メートルくらいの奴を退治したよね?」
「大魔獣ギングゴンガじゃな。魔人を喰うので人間たちからは、益魔獣と言われておったのう」
「そういう方向の大きさじゃねェ!」
と、ガジリ。
「あいつ、ウワサほど強くなかったよね」
「あれは、丘ごと吹き飛ばしたから、強さが分からなかっただけじゃ」
「いい加減な話をしてるんじゃねェ」
最近、ヤハラの丘の形が変わった噂は聞いていたので、驚きながらも取り敢えず声を張り上げるガジリ。
「オレ様だって、仲間のためにギングゴンガを退治しようと思っていたんだ!」
ガジリは、実行はともかく、言うことによって満足するタイプだった。
(いや、待てよ。ギングゴンガを退治したというこの小娘を倒せば、オレ様はギングゴンガより強いってことになるじゃねェか)
という妄想にからめ取られるガジリ。
(なあに、こんな小娘、不意を突けばどうってことはねェさ)
ガジリは見た目で人を判断するタイプでもあった。
『不意を突いて少女を倒す!』
という緊張感から、尻尾をピンと立てたため、それを見たピミウォが、
「襲ってくるぞ」
とビキラに告げた。
「うん」
短く応じて、ビキラは回文を詠唱した。
「悪いテレビ痺れているわ(わるいてれび、しびれているわ)」
ビキラとガジリの間に具現化した昔なつかしいブラウン管テレビは、厚みのある体をゆすって、
「痺れたいのはどいつだーー!」
と叫んだ。
「あっち。あっちよ、あっち」
ガジリを指すビキラ。
「騙されるな、敵はあっちだ」
と言ってみるガジリ。
「じゃあ、連帯責任だっ」
真空管を内蔵したブラウン管テレビは、そう言うと盛大に放電した。
「うわわっ、びりびりびり!」
「きゃあ、あたしまでびりびりびり!」
「体が焦げ焦げびりびりびり!」
「実はオイラもびりびりびり!」
その翌日、街の歩道を前屈みになって彷徨うガジリの姿があった。
「タバコ……タバコ……」
と、つぶやいている。
左手にゴミ袋、右手に小旗を持っていた。
小旗には、煙の立ちのぼるタバコの絵が描いてある。
「おっ、喫煙所だ、助かったぜ」
ガジリは勢いよく路傍の喫煙所に跳び込んだ。
その勢いに、中に居た数人が驚いてガジリを見る。
「おい、てめェら! 路上にタバコのポイ捨てをするんだっ」
小旗を振って言葉を続けるガジリ。
「オレ様は、タバコの吸い殻を拾わねェと死んじまうんだよっ」
ポイ捨て魔人ガジリは、ブラウン管テレビの電気ショックで、ヒョイ拾い魔人に体質改善されたのだった。
その電気ショックによる変化は、ビキラたちにもあった。
「なんであたしが古本なのよ。あーー、ボロ臭いったら」
「この防弾仕様のインナーウェア、脱いでもよいか? 重くてかなわん」
体が入れ替わっていた。
よくある話ではあったが……。
(煙草の小旗)
たばこのこばた
ナンセンスな話にお付き合い下さって有り難うございます。
一話読み切りのショートショート連載です。
次回、第九話「あたしがピミウォ」の巻。
電気ショックによって、安易に身体が入れ替わってしまったビキラとピミウォは、果たして元に戻るのであろうか?!
風雲急を告げる波乱必至の次回に乞うご期待!!!