第五十四話「ププンハン現わる」の巻
「ププンハン殿、よくぞご無事で」
と気遣う古書ピミウォ。
素浪人が九尾の妖狐に連れ去られて数日後、見知らぬ街でビキラたちと出会ったのだった。
「いや、九尾さんの分身とデートしただけですから」
さらりと答えるププンハン。
「九尾さんの分身?」
と、ピミウォ。
「デートって、どういうこと? ププンハン」
と、ビキラ。
「九尾さんの尻尾が人間に化けまして、後学のために一緒に、人里をウロウロしただけですよ」
「あーー、新しい技って、尻尾を人間に化けさせるってこと?」
「そのようです。で、九本すべてを人間に化けさせたら、当然のことながら尻尾がなくなって、人間にかなり近い見た目になってましたね」
「でも、尻尾って、キュウちゃんのエネルギータンクだよ。弱体化したってことじゃないの?」
「そうですね。九尾さんも、それは自分で言ってました」
「えーー。じゃあ、今なら勝てるかなあ」
と言って、腕を組むビキラ。
「こりゃ、ビキラ。つまらぬことを考えるでない」
「ふふっ。ビキラならそう考えると思った」
と、女の声になって言うププンハン。
「げっ。ど、どうしたのププンハン。今頃、声変わり?」
「さてはお主、人に化けた九尾の尻尾じゃな?!」
「一人一人は、さほど力はないけれど、これだけ上手に化けられたら、色々と便利よね?」
「ええっと、今、喋っているのはキュウちゃん?」
「それぞれの分身と意思疎通が出来、割り込んで、舌を借りてこのように喋ることも可能だ。かなり面倒な作業だがな」
「面倒なの?」
「自立した思念がワタシの頭の中で、十も飛び交っているからな」
「キュウちゃん。そんなことしてると、化け物になっちゃうよ」
「ふん。安心せい、身に過ぎた御業と、今、後悔しているところだ。コントロールがむずかしい。平静を保つのが難しい。気が狂いそうだ」
「それはまだ、慣れていないからじゃろうて、九尾さん」
「こら、余計なことを言うんじゃない、ピミウォ」
そこに現れるもう一人のププンハン。
「ビキラさん、そいつは私ではありません」
二人目のププンハンは険しい顔をしていた。
「うん、分かってる。キュウちゃんの尻尾が化けているんだって」
「そうですか。ところでビキラさん」
と眉間に皺を寄せたままビキラを見るププンハン。
「なんなの? ププンハン、改まって」
「あなた、九尾さんの尻尾じゃないでしょうね?」
と畳み掛ける素浪人。
「なるほど、当然の疑問じゃ」
古書ピミウォが、しおりヒモで、ポン! と表紙を打った。
「あたしは本物だけど、どどどどうして証明したら良いの? 回文妖術をブッ放す?!」
と、近くの銅像に狙いを定めるビキラ。
「いえ、それは危険です。そうですね、弱点を言えば良いんじゃないんですか?」
「あなたと同じよププンハン。地獄が苦手、つーーか、怖い。それから、クビナガタカアシ……」
「待て、ビキラよ。それ以上言わんでよい。どうやら二人目のププンハン殿も、九尾さんの尻尾のようじゃ」
「ええっ?! ややこしいわね、もう」
「成程。ピミウォ、お主がビキラの肝のようだな」
と、女声になって唇をゆがめる二人目のププンハン。
「そうか。一人一人は弱いのだったな」
ビキラも唇をゆがめ、そして詠唱した。
「体固め梅田が居た(たいがため! うめたが、いた!!)」
ビキラは回文によって、熱血梅田君を具現化させた。
二人のププンハンは、レスリングウェアの梅田君に次々と体固めを決められ、悲鳴を上げて正体を現わした。
そして、文字通り尻尾を巻いて逃げ去った。
「あら、本当に二人とも尻尾だったわ」
そこに現れる三人目のププンハン。
「どうしたんですか? 二人とも怖い顔をして」
キョトンとした顔の素浪人。
「現れるタイミングが良すぎるのじゃ、ププンハン殿」
「そうそう、刑事ドラマの連絡係じゃあるまいし」
「ププンハン殿、九尾さんに連れ去られて、何をしておったのかのう?」
「ああ、あれは、九尾さんが、尻尾を人間に化けさせる術を編み出したとかで」
軽く手を広げるププンハン。
「その化け尻尾人間と一緒に、街をブラブラしただけですよ」
「ふん。そこまでは一緒ね」
「な、何と一緒なんですか? ビキラさん」
ビビる素振りの素浪人ププンハン。
「じゃあ、一発、妖術を撃ってもらおうかしら。出来たらあなたを本物と信じるわ」
昔話・童話妖術師ププンハンは、訳も聞かず高らかに詠唱した。
「今日は、この辺にしておいてやる!」
と、女の声で。
(嘘偽の背に添う)
うそ。にせのせに、そう!
次回、「魔人ビキラ」本編は、水曜日(1月24日)の、お昼12時前後に投稿予定。
明日、1月22日は、朝の7時前後に、
回文ショートショート童話「続・のほほん」を投稿予定です。
ほなまた、明日。のほほんで。




