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第五十二話「分家騒動」の巻

魔人ビキラは例によって、悪党退治の願掛けに神社を訪れた。

広大な鎮守(ちんじゅ)(もり)に囲まれた小さな神社だった。


そして、ひと気のない境内(けいだい)で、賽銭(さいせん)泥棒を見つけてしまうビキラと古書ピミウォ。

行き掛けの駄賃とばかりに戦いを始めたが、いつもとは勝手が違った。

  相性が悪く、苦戦を()いられていたのだ。

今また、何度目かの回文を詠唱するビキラ。


「リモコンあんこ盛り(りもこん、あんこ盛り!)」


回文はたちまち具現化し、あんこを盛りつけたリモートコントローラーが束になって、賽銭泥棒である口裂け魔人を襲った。

迎え撃つ魔人、トップリンは、耳まで裂けた口で、


「ここもりもりあんん(ここ、もりもり。あんん!」


と、アナグラムを唱えた。

アナグラム。つまり、言葉の入れ替えである。

あんこ盛りのリモコンは、トップリンな妖術によって、「あんん」に変換されたのだ。


地面に落ちた「あんん」は、「ここ」を「もりもり」させながら(もだ)えている。


「あたしの、『あんこ盛りリモコン』はどうなったの?」

「『あんん』になったようじゃな」

「『もりもり』してる『ここ』って、何処(どこ)?!」

「ワシにも分からん。見て分からぬものは聞いても分かるまいて」


戦いの最初から、こういう展開の繰り返しであった。

相手に届く前に、無害(?)な物体に変えられてしまうのだ。


「どうした小娘、もう終わりか? 賽銭を取り返すのではなかったか?」

口裂けアナグラム魔人トップリンは、トーストブラウンの(おの)作業服(オーバーオール)を叩いた。

  盗んだ賽銭が、ジャラジャラと音を立てる。


「ビキラよ、ここは臨機応変に戦うのじゃ」

  魔人少女の頭上を舞う古書ピミウォが助言した。

つまり「ぶん殴れ!」

     という指示だ。

「なんのこれしき。あたしは妖術師なんだから、妖術で倒す!」

  ビキラは意地になって応じた。


トップリンとビキラの対峙(たいじ)する地面には、

 オカルトなオカリナ。

   クラゲにしては骨のある奴。

  フランスの忍者、ジャン・ポール・サルトビ。

          掛け声かける遺書だよ、どっこ遺書。

手に汗握(にぎ)る、にぎり飯。

         オダギリシャジョー。

  などが散乱していた。

元がどういう詠唱であったのか、もはや知る(よし)もない。


そんなビキラの苦闘を、石灯籠(いしどうろう)(かげ)に隠れて見ている者があった。

  手には六角の祓串(はらえぐし)。紙の房が沢山付いている。

上着は、ウインターホワイトの小袖(こそで)

  下は、カーションレッドの(はかま)

魔人ビキラの分身、巫女(みこ)小夜(サヨ)だ。


「賽銭泥棒を捕まえて欲しい」という要請を受けて、就職した神社から遥遥(はるばる)やって来たのだ。

  そしてばったり、ビキラの捕り物に出会ったのだった。

「相性が悪いわねえ」

  猫耳のサヨは、石灯籠の陰でつぶやいた。


アナグラム魔人トップリンが、自分の背後をうかがっている視線に気がついて、ビキラは振り返った。

    そして、サヨを見つける。

「あっ、あたしの分家」

  と声を上げるビキラ。

「そんな所で高みの見物を決め込んでないで、本家のあたしを助けなさいよ」

「あなたがあたしの分家でしょ」

  サヨは石灯籠を離れ、姿を見せた。

「もちろん分家に味方するわよ」

  サヨはそう言うと、祓串を振って詠唱した。


「お祓いサイクロン!」


詠唱はたちまち風を呼び渦を巻き、豪風(ごうふう)となってトップリンを襲った。


「オイラは黒井さん(おいらはくろいさん)!」


その遅い来る轟轟(ごうごう)たる風が、すみやかに『黒井さん』に変換されてゆく。


無色透明だったサイクロンが、渦巻くたびに着色され人体化し、やがて境内の中央に、ストン! と降り立つ優男(やさおとこ)

「オイラの名は黒井。サプライズブラックのスーツがその証拠。人呼んで風力12!」

  アナグラム化されたのだ。 


サイクロンの名残りが感じられる名乗りだった。

そしてサヨに向かって走り出す黒井さん。

「死ねい、(つか)の間の主、サヨ!」

  などと叫んでいる。


「ほら、駄目じゃん。何を見てたのよ、サヨ!」

  ビキラは地団駄を踏んだ。

猫耳のサヨを倒すためには、黒井さんはビキラの横を通らねばならない。

黒井さんは、ビキラに軽く会釈(えしゃく)して通り抜けようとしたが、それを許すビキラではなかった。

  素早く回文を詠唱する。


「蹴倒すお竹 (けたおすおたけ!)」


頭に手拭(てぬぐ)いを巻いた野良着姿のお竹さんは、具現化するなり黒井さんを蹴り倒した。

その大ダメージで(もろ)くも消滅するかつてのサイクロン、黒井さん。


「一丁上がり!」  

  お竹さんは手を打って雄叫びを上げた。

「次はアイツね!」

  と、足でトップリンを指す。


「そうじゃな、ビキラ。仮初(かりそ)めの者が物理攻撃をするのは、構わんだろう?」

「そうね」

妖術にこだわる今日のビキラは、鷹揚(おうよう)にうなづいた。

「あたしの直接打撃でなければ、全然構わない」

  それはいつものビキラの攻撃ではあった。


「しまった。俺への攻撃ではなかったから……」

  と歯噛みするトップリン。

「アナグラムが出来なかったようね」

  と笑うビキラ。

「あっ、ちょっと待ちなさいよ、分家。あたしにも残しといてよ。倒し方、分かったんだから」

  と叫びながら、走り出すサヨ。


「お祓いウルトラ、ミラクル、マイティ、マジカル……」  詠唱しながらビキラの横を走り抜けるサヨ。

「ダイナミック、ハイパー、デラックス、エキスプレス、プレミアム、ダイナマイト……」

いつどこで終わるのかと待っているトップリンの眼前で立ち止まり、

「メガトン、ギガトン、テラクレス……」

  と唱えつつ、トップリンを張り倒した。


それを見て、

「あっ、妖術師ともあろう者が、直接打撃だなんて!」

  と普段の自分を棚に上げて怒る今日のビキラ。


「融通、機転、臨機応変よ」

  サヨは振り返ってビキラに言った。

それから、地面に大の字になってピクリとも動かなくなったトップリンに、

「あなた、尾頭(おがしら)もない不毛の詠唱を、最後まで聞いてちゃ駄目よ」

  と(さと)した。

意識を失っているトップリンの心には、届かなかったが。


「分家の腕が確かなので、安心したわ」

  と、ビキラ。

「だから分家はあなただっての!」

  祓串を振り振り、猫耳のサヨが言った。

「まあ、助けてもらったし、今日のところは、あたしが分家でいいわよ」

  ビキラはそう言って、腕を組んだ。



(高みの見物分家の味方)

たかみのけんぶつ、ぶんけのみかた!





明日は、長い話を投稿する余裕が無さそうなので、「魔人ビキラ」本編は、本日の投稿となりました。

明日は、時間を見て、

回文ショートショート童話「続・のほほん」を投稿予定。


次回、魔人ビキラ本編、「サーヤン観音」の巻

は、水曜日(1月17日)に投稿予定です。

久々に、九尾のキュウちゃん。自販機ロボ、ナナちゃん。素浪人ププンハンが登場する。らしい。

元気があってよろしい(自分に)。


ほなまた、明日、「続・のほほん」で。

投稿時間は、不明。

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