第五十一話「爆裂格闘士ビキラ」の巻
自治会の花壇を見物していて、花盗人を発見する魔人ビキラ。
魔人少女は躊躇なく回文を詠唱した。
「永井荷風深いがな (ながいかふう、ふかいがな!)」
だが、その女好きで知られる深く長い顔の作家は、具現化しなかった。
「あれっ? どうして?!」
と思わず自分の手を見るビキラ。妖術に術者の手は関係なかったが。
「どうしました? ビキラさん。盗っ人が逃げますよ」
一緒に居た昔話・童話妖術師のププンハンは、盗っ人を捕えるべく詠唱した。
「アラジンと魔法の四十人の盗賊!」
そのオーバーキルな具現化物は、花壇をズタボロにしたが、無事に花盗人を捕えることが出来た。
その後、
「花代を弁償してもらっても、育ててきた思い出は戻らないのよ!」
「あたしは名前を付けて大切に育てて来たのに! 嗚呼、ジョセフィーヌちゃん!」
「ワシの、タンポポのポポン太、を返せ!」
などなど散々に叱られ、たっぷりと弁償金を払わされた二人と一冊でった。
さらにその後、
「どうしたんですか、ビキラさん?」
「なんか、急に妖術が使えなくなったみたい」
と言って回文を詠唱するビキラ。
「赤い太陽酔いたいかあ (あかいたいよう、よいたいかあ!)」
「ほら、赤い太陽も酔っぱらいも具現化しない」
「いや、ビキラさん。こんな住宅街に太陽を出してはいけません」
「ほほう。ついに枯れたのかのう」
古書ピミウォが他意なく不吉を吐いた。
「まあ、この頃は、おたずね者によく出くわして、妖力も沢山使ったけど、まさかこの程度で枯れる訳ないじゃん」 ビキラは不安で胸を一杯にしながら、笑った。
一応、ビキラは自分の妖力と体力に自信があった。
根拠はなかったが。
「念のため、医者に診てもらおう。ビキラよ」
「いや、医者は必要ない。自力で治す」
「ひょっとして、注射が怖いのですか? ビキラさん」
「ナニ言ってんの! 言い当てたら良いってもんじゃないわよ、ププンハン!」
『ビキラさんは注射が苦手』と、素早くメモる素浪人ププンハン。
しかし、「駄菓子を買うてやる」と言うピミウォの甘言に乗って、近くの医院に入ってゆく二人と一冊。
診察室でのやり取りが、待合室のピミウォとププンハンの耳にも飛び込んで来る。
「はい。急に妖術が使えなくなっちゃって」
「ふむふむ。食欲は?」
と、評判の良い、居て欲しい医師布袋。
「快眠、快便、快食です」
「なるほど。お仕事は、捕り物屋でしたな?」
「はい。妖術が使えないと、死活問題なんです」
「一応、血液検査をしておきましょう」
「自分の顔を殴って鼻血を出しますから、その血で」
「いえ、しかるべき箇所の、静脈から頂きます。尺側皮が良いですか? トウ側皮が良いですか? 肘正中皮が良いですか?」 ホテイ医師は、きっぱりと言った。
「ひいいいいい!」
ビキラの悲鳴が、空しく診察室に響いた。
さらにさらに、その血液検査後、
「やはり、出禁菌イヤデオマースが出ていました」
と、ホテイ医師。
「デキンキン?! なんですか、それ?」
「妖力を使いすぎて、身体が極度に疲弊すると、出てくる菌ですよ」
「へーー。知らなかったわ」
「普段の疲労の、蓄積の賜物でしょうな。ようするに、生身の身体の危険信号ですよ」
「どうしたら、そのデキンキンをやっつけられるの?」
「なあに、しばらく妖力の使用を止めれば、治ります。たっぷり静養されたら、妖力はまた使えるようになりますよ」
「しししししばらくって、どれくらい? あたし、妖術師なんだけど」
ビキラは、菌が発見される前とは打って変わって、大きな焦りを見せた。
その後ビキラは、やむを得ず、おたずね者退治を直接物理攻撃に切り替えた。
お陰で、賞金首たちの大怪我は、以前に比べて絶大に増えてゆくのであった。
「ごめんね、暴力が直接的で」
ビキラはおたずね者魔人たちに謝るのだった。
殴る蹴るの快感に酔いしれながら。
(菌の出る前まるで呑気)
きんのでるまえ、まるでのんき!
次回、「魔人ビキラ」は、ショートショートショート版を、
金曜日(1月12日)のお昼12時前後に。
本編は、「分家騒動」の巻。1月14日に外出予定時間未定。
ビキラvsサヨ? 果たしてどちらが分家になるのか?!
回文ショートショート童話「続・のほほん」は、
ビキラ投稿予定以外の、すべての曜日。
月曜、火曜、木曜、土曜の朝、6〜7時頃に投稿予定。
ほなまた明日の朝、「続・のほほん」で。




