ビキラ外伝「方便師」の巻
方便師が街角に立って、有る事無い事言いふらしていた。
方便師は方便が仕事であったから、まあ仕方のないことではあった。
十数名の聴衆がいたが、ビキラは関わらずに通り過ぎようとした。
が、
「あいや待たれよ、そこの虹色の髪のお嬢さん」
と方便師に呼び止められてしまう魔人ビキラ。
十数名の野次馬が、一斉に振り返ってビキラを見た。
「ぎくっ」
とつぶやいて立ち止まる魔人少女。
「お嬢さん、宇宙はどうして始まったかご存知かな?」
と問う方便師。
(うぬ。あたしを無知な小娘と侮ったな!)
「ビックリバンから始まったんじゃなかったかしら」
ビキラは堂々と受け答えた。
「何もない『無』が、ある時ふと自分の姿に気がついて、あっ! とビックリしたのが宇宙の始まりよ。その時のビックリ熱は、今も宇宙に残ってるのよ!」
「う、うむ。その通りだ!」烏帽子を被った方便師は、ビキラの自信満々の言葉に気後れしてそう言った。
自分の知識とは少し違っていたが、自信がなかったのだ。
「おお。物知りなお嬢さんだ」
「見かけによらず勉強家だ」
「これ、我が子よ、見習いなさい」
などと野次馬が感心し、気を良くするビキラ。
あえて訂正しない肩の上の古書ピミウォ。
「じゃあ、あなた。二角形の内角の和は、三角形の外角の和にほぼ等しい。って、ご存知だった?」
ビキラは駄菓子の袋に書いてあった「屁理屈クイズ」を言ってみた。
「もももももちろんだとも。そういう非形而上学の異常識を知らずして、方便師は出来ぬ!」
「汚れなき汚物。さて、誰のことでしょう?!」
方便師が受けに回ったのを良いことに、言いつのるビキラ。
「だ、誰? 誰か、とな?!」
ビキラの言葉に惑わされる方便師。
「わからない? じゃあ、教えてあげようか?」
ビキラも知らなかった。
「ま、待て待て。喉まで出ておるのだ」
思惑通り、ビキラの言葉をさえぎる方便師。
「分かった、アレだ。念仏は清い。しかし生臭坊主は、汚い。だから、念仏を唱えるナマグサ坊主が、汚れなき汚物だっ??」
思い切り疑問形で言い切る方便師。
「おや、良くご存知ね」
言ってはみたものの、答えがあるとは知らなかったビキラ。
しかし弱味は見せられない。
「あたしだって、もちろんご存知だったわよ!」
それから数十分、方便師はおたずね者ではなかったので、ただただ無駄話で時間を浪費するビキラだった。
(存知ます魔人ぞ)
ぞんじますまじんぞ!
みなさま、良いお年を。




